「中国語が話せないまま、上海で暮らしていけるんだろうか」
赴任が決まった方から、いちばんよく聞かれるのがこれです。
先に結論をお伝えすると、暮らせます。買い物も移動も、いまはアプリが代わりにやってくれます。ただ、「暮らせる」と「困らない」は別の話です。中国語が要らない場面と、どうしても要る場面は、暮らしの中ではっきり分かれています。
私は上海歴20年の上海パンダ🐼です。大学で中国語を専攻してHSK6級を取り、いまは上海でビジネスから日常会話まで中国語を使っています。つまり私自身はゼロではありません。でも、ゼロのまま何年も上海で暮らしている人を、これまで何人も見てきました。
この記事では、その方たちが実際にどう暮らしていたかを、5つの場面に分けてお伝えします。最後に、20年見てきてわかった「話せるようになった人と、ならなかった人の差」も書きました。読み終わるころには、どこを捨ててよくて、どこだけ押さえればいいかがはっきりするはずです。

この差は、やる気の差だと思っていました。20年見てきて、そうではないと気づいたんです🐼
① 結論|暮らせます。ただし「暮らせる」と「困らない」は別です
「中国語が話せないまま、上海で暮らせるのか」
結論から言うと、暮らせます。私のまわりにも、中国語をほとんど話せないまま駐在を終えて帰っていった方が何人もいます。生活が成り立たなくて帰国した、という話は聞いたことがありません。
ただ、ここで終わらせると片手落ちになります。「暮らせる」と「困らない」は、別の話だからです。
①-1 20年見てきて、話せないまま帰任した人は半分くらいです
数えたわけではないので正確な割合は出せませんが、私の見てきた範囲では、上海に来て話せるようになる人と、話せないまま帰る人は、だいたい半々という感覚です。
では、話せない方が困っていなかったのかというと、そんなことはありません。困る場面はちゃんとありました。ただ、その困りごとを自分の中国語で解決していなかっただけです。
どうしていたかというと、だいたいこの2つに分かれます。
・仕事のことは、会社のスタッフに通訳してもらう
・プライベートのことは、中国語が話せる友人に頼む
これは裏を返すと、頼める相手がいる人は、話せなくても暮らせてしまうということでもあります。

「話せないと生活できない」というより、「話せない人のまわりには、たいてい誰かがいる」んですよね🐼 そこに気づいてから、まわりの見え方が変わりました。
①-2 しかも、その割合はいま増えています
もうひとつ、20年いて感じている変化があります。いまのほうが、話せない人は増えているという実感です。
理由はシンプルで、環境が整ってしまったからだと思っています。通訳をつける会社も、日本語で頼めるサービスも、スマホのアプリも、20年前とは比べものになりません。
ここは正直に書いておくと、私は人数を数えて比べたわけではありません。「何割から何割に増えた」という数字は出せません。あくまで、20年ここにいて受けている印象です。
①-3 場面によって、要る/要らないははっきり分かれます
そのうえで、この記事でいちばんお伝えしたいのがここです。
中国語は「必要か、不要か」の二択ではありません。暮らしの場面ごとに、要る/要らないがはっきり分かれます。
図にした5つの場面には、ひとつだけ共通する分かれ目があります。それは、物事が予定どおりに進んでいるかどうかです。
予定どおりに進んでいる間は、言葉はほとんど要りません。買い物も移動も、アプリが代わりにやってくれます。ところが、予定からずれた瞬間に、言葉が必要になります。届くはずの荷物が届かない、迎えに来た車と行き違う、修理を断られる、体調が悪い。この記事の5場面は、その「ずれたとき」を場面別に並べたものです。
①-4 先に、私の立場を書いておきます
ここで先にお伝えしておきたいことがあります。
私は大学で中国語を専攻し、HSK6級を取得しました。いまは上海で、ビジネスの場面から日常会話まで中国語を使っています。つまり、私自身は「中国語ゼロ」ではありません。
それでもこの記事を書くのは、ゼロのまま上海で暮らしている人を、20年のあいだに何人も見てきたからです。
なのでこの記事は、「私はこうやって乗り越えました」という話ではありません。話せない人が、この街で実際にどう暮らしていたかを、横で見てきた側からお伝えします。そのほうが、これから来る方の役に立つはずです。
この章のまとめ
・中国語ゼロでも上海では暮らせる。生活が成り立たなくなることはまずない
・ただし「暮らせる」と「困らない」は別。困りごとは、誰かに頼んで解決している
・話せない人はいま増えている(数字ではなく、20年いての印象)
・分かれ目は場面ではなく「予定どおりか、ずれたか」
・書き手はゼロではない。ゼロのまま暮らす人を見てきた側として書いています
② 場面1 買い物と決済|ここはもう、ほとんど言葉が要りません
まず、いちばん心配されることの多い買い物からいきます。結論を先に言うと、ここはもう言葉の出番がほとんどありません。
②-1 レジでも屋台でも、一言も話さずに終わります
いまの上海の買い物は、スマホのQRコードで終わります。支付宝(アリペイ/Zhīfùbǎo)か、微信支付(ウィーチャットペイ/Wēixìn zhīfù)のどちらかです。
レジでやることは、画面を見せるか、相手のコードを読み取るか。それだけです。「いくらですか」も「袋はいりません」も、言わずに済んでしまいます。屋台でも、路面の小さな店でも同じです。
私も、レジで一言も話さないまま店を出る日がふつうにあります。中国語が話せる私ですら、そうなのです。話せない方なら、なおさら言葉を使う場面がありません。
どのアプリを入れておけば生活が回るかは、こちらにまとめています。

②-2 以前は、電卓と指差しと現金でした
ただ、これはここ最近の話です。
以前は、こうはいきませんでした。支払いは現金で、値段のやり取りは電卓の画面を見せ合って、欲しいものは指をさして伝える。話せない方は、そうやって買い物をしていました。買い物のたびに、ちょっとした気合いが要る時代だったわけです。
スマホの決済とアプリが広まってから、この部分がまるごと消えました。「中国語ゼロでも暮らせる」という話が本当になったのは、実はそれほど昔のことではありません。これから来る方は、いちばん楽になった時期に来ることになります。
②-3 言葉が要るのは「予定どおりに届かなかったとき」です
では買い物で言葉がまったく要らないかというと、そうでもありません。注文どおりに届かなかったときだけ、急に必要になります。
いちばんわかりやすいのが、デリバリーでスーパーの買い物を頼んだときです。上海では、外卖(ワイマイ/wàimài)と呼ばれる出前や買い物代行がとても発達していて、注文そのものはアプリの中で完結します。ここまでは言葉が要りません。
言葉が出てくるのは、この後です。
・「頼まれた品が欠品でした。別のものに替えますか」
・「配達中に卵が割れてしまいました」
こういう連絡が、中国語で、しかもその場での返事を求めて飛んできます。買い物カゴに入れた瞬間ではなく、届く直前に来るのがやっかいなところです。
翻訳アプリで読めば意味はわかります。ただ、「じゃあ何に替えるか」「どうしてほしいのか」を返す側になるので、ここだけは受け身では終わりません。
②-4 返品・交換は、AIに文面を作ってもらえば足ります
とはいえ、ここは今なら解決できます。私は、返品や交換のやり取りは、AIに中国語の文面を作ってもらって済ませています。
やることは単純で、「こういう状況で、こう伝えたい」と日本語で書いて、中国語の文面にしてもらう。それをそのまま送るだけです。相手から返ってきた中国語も、そのまま読ませれば意味がわかります。
買い物のやり取りは、言い回しが決まっていて、しかも急がないので、この方法と相性がいいのです。文字で届いて、文字で返せばいいというのも大きいところです。
この章のまとめ
・レジも屋台もQRコード。買い物で言葉を使う場面はほとんどない
・以前は電卓と指差しと現金だった。楽になったのはここ最近
・言葉が要るのは「欠品」「配達中に割れた」など、予定どおりに届かなかったとき
・文字でのやり取りなら、AIに中国語の文面を作ってもらえば足りる
・ただし「その場で声で返す場面」「間違えると危ない場面」は別(このあとの章で)
③ 場面2 移動|配車アプリで解決する範囲と、しない範囲
次は移動です。ここもアプリがほとんど解決してくれます。ただ、買い物と違って電話が鳴るぶん、逃げ切れない部分が少しだけ残ります。
③-1 行き先は地図で指定するので、会話が発生しません
上海の移動でいちばん使うのが、配車アプリの滴滴出行(ディディチューシン/Dīdī chūxíng)です。
やることは、地図の上で行き先をタップして、車を呼ぶだけ。行き先を口で説明する必要がありません。料金もあらかじめ表示され、支払いはアプリの中で終わるので、降りるときのやり取りもありません。
タクシーで行き先が通じずに焦る、という昔ながらの苦労は、この時点でほぼ消えています。配車アプリ・地下鉄・タクシーの使い分けは、こちらにまとめています。

③-2 それでも、電話は鳴ります
ここからが、買い物との違いです。配車アプリを使っていると、運転手から電話がかかってきます。
中身はだいたい決まっていて、この2つです。
・「着きました」(いまどこにいますか)
・「まだ来ないんですか」(早く来てください)
つまり催促です。内容が決まっているぶん、必要な中国語も難しくありません。「いま行きます」「すぐ降ります」が言えれば足ります。ここは、簡単な中国語で乗り切れる場面です。
③-3 詰まるのは、待ち合わせ場所がずれたときです
問題は、待ち合わせの場所が手違いでずれたときです。
こうなると、話の中身が「いまどこにいるか」「どっちへ動けばいいか」に変わります。相手は車を停められる場所にしかいられませんし、こちらも建物の反対側にいたりします。この説明は、決まり文句では収まりません。ここだけは、ある程度の中国語が要ります。
③-4 話せなくても、メッセージ機能があります
では話せない人が詰むのかというと、そこまでではありません。配車アプリには運転手とやり取りできるメッセージ機能があるので、最悪それで何とかなります。文字なら、翻訳して読む余裕も生まれます。
いちばん確実なのは、そもそも電話がかかってこない状態を作ることです。行き先を先に確定させ、待ち合わせの場所を自分が立っている場所に直しておく。それだけで、会話が発生する回数がぐっと減ります。
この章のまとめ
・行き先は地図で指定。呼ぶ・乗る・払うに会話は要らない
・ただし運転手から電話は鳴る。中身は「着きました」「まだですか」の催促が中心
・決まり文句で足りるので、ここは簡単な中国語で乗り切れる
・本当に困るのは、待ち合わせ場所がずれたとき
・最悪はメッセージ機能で文字のやり取りに逃げられる(自動翻訳の精度は未確認)
④ 場面3 家の中|大家・修理・阿姨
家の中は、言葉が要る場面と要らない場面がいちばん混ざるところです。しかも相手が選べません。大家さんも、修理に来る人も、こちらが選んだ相手ではないからです。
④-1 日々の連絡は、WeChatのテキストで足ります
まず、日々のやり取りです。上海の連絡は、ほぼすべて微信(ウィーチャット/Wēixìn)で行われます。大家さんとの連絡も、マンションの管理側とのやり取りも、宅配の人からの連絡も、ここに集まります。
そしてWeChatはテキストでのやり取りが基本なので、話せなくても、書いて送れば通じます。翻訳して読む時間も取れますし、後から見返せるのも助かります。「言った・言わない」になりにくいという意味でも、文字は強いです。
④-2 修理は「呼ぶ」より「交渉」です
ところが、家の話には呼んで終わりにならないものがあります。修理です。
上海の住まいは、家具や家電が付いた状態で借りるのがふつうです。つまり壊れたときに直すのは、基本的に大家さん(房东/ファンドン/Fángdōng)の仕事になります。ここで起きるのが、次のようなやり取りです。
・古い家電が壊れた。直すのか、買い替えるのか
・こちらは替えてほしい。大家さんは「まだ使える」と言う
つまり、故障の連絡ではなく、負担の交渉になるわけです。しかも相手によって出方が変わります。気前よく新しいものに替えてくれる大家さんもいれば、なかなか首を縦に振らない大家さんもいます。
ここは、翻訳して文章を送れば解決、という種類の話ではありません。粘る場面だからです。中国語が話せる人でも骨が折れるところなので、話せない方にとっては、生活の中でいちばん重い交渉になります。
④-3 詰まったら、会社のスタッフに通訳してもらう
では、話せない人はどうしているのか。答えは身も蓋もないのですが、会社のスタッフに通訳してもらっている方が多いです。
これは家の中に限った話ではありません。マンションの管理(物业/ウーイエ/Wùyè)とのやり取りも、宅配や警備の人とのやり取りも、行き詰まったところで同じ場所にたどり着きます。WeChatのテキストで粘って、それでも動かないときは、誰かに入ってもらう。上海の駐在生活は、だいたいこの形で回っています。

「会社のスタッフに頼む」と聞くと甘えに見えるかもしれませんが、頼れる先を先に確保しておくのも準備のうちです🐼 困ってから探すのがいちばんしんどいので。
④-4 阿姨は、中国語ゼロでもお願いできます
家の中でもうひとつ気になるのが、お手伝いさんの阿姨(アーイー/Ā yí)だと思います。
ここは心配いりません。中国語ゼロでもお願いしている家庭はたくさんあります。やり取りはWeChatのテキストが中心ですし、お願いしたいことも毎回だいたい同じだからです。相場・探し方・頼み方は、こちらにまとめています。

この章のまとめ
・大家さん・管理・宅配の連絡は、WeChatのテキストで足りる
・重いのは修理。故障の連絡ではなく「直すか替えるか」の交渉になる
・大家さんによって出方が違い、粘る場面になる。ここは翻訳だけでは押し切れない
・行き詰まったら、会社のスタッフに通訳してもらっている人が多い
・阿姨は中国語ゼロでもお願いできる(やり取りは文字が中心)
⑤ 場面4 医療|ここだけは、自力で説明しない
ここまで「アプリと文字でだいたい何とかなる」と書いてきました。その例外が医療です。この章だけは、考え方を変えてください。
⑤-1 私は、日本語が通じる病院しか使っていません
先に自分のことを書いておきます。私は中国語が話せますが、病院は日本語が通じるところしか使っていません。
中国語で症状を説明できないからではありません。説明できるつもりでも、やらないほうがいいと思っているからです。体調が悪いときは、そもそも頭も口も普段どおりに動きません。そのうえ、症状の言葉は日常会話とは別ものです。
中国語が話せる人間がこうしているのですから、話せない方が自力で乗り切ろうとする必要は、まったくありません。
⑤-2 翻訳アプリで症状を伝えるのは危ないです
買い物の章で「返品や交換はAIに文面を作ってもらえば足りる」と書きました。同じ発想を医療に持ち込まないでください。
買い物のやり取りは、間違えても品物が替わるだけです。ところが医療は、伝え方がずれると、受ける処置が変わりかねません。「いつから」「どこが」「どんなふうに」痛いのか。この種の言葉は少しの違いで意味が変わりますし、そもそも合っているかどうかを、こちら側では確かめられません。
⑤-3 上海には、日本語で最後まで完結する選択肢があります
そしてありがたいことに、上海では日本語が通じる医療にたどり着けます。日系のクリニックなら、受付から診察、会計まで日本語で終わります。会社が医療アシスタンスと契約していれば、病院を探すところから日本語で頼めます。
つまり医療は、中国語を頑張る場面ではなく、日本語で受けられる先を元気なうちに決めておく場面です。具合が悪くなってから探し始めるのが、いちばんしんどいやり方になります。3つの選択肢の違いと、予約から会計までの流れはこちらにまとめています。

この章のまとめ
・中国語が話せる私自身も、病院は日本語が通じるところしか使っていない
・症状の説明は、翻訳アプリに任せてよい種類の言葉ではない
・買い物と違い、間違えたときに戻せない
・上海には日本語で完結する選択肢がある。元気なうちに行き先を決めておく
⑥ 場面5 仕事・学校・ご近所|逃げられない場面
最後の場面です。ここまでは「誰かに頼む」「文字に逃げる」で切り抜けられました。それができない場面を集めたのがこの章です。
⑥-1 宴席は、通訳を挟むと冷めます
仕事で中国語が本当に効くのは、実は商談そのものではありません。その後の食事の席です。
会食の場は、内容よりもテンポでできています。誰かが冗談を言って、すぐ笑いが返る。その往復で距離が縮まります。ところが通訳を挟むと、この往復が一拍ずつ遅れます。意味は正確に伝わっているのに、場の熱だけが冷めていくのです。
ここは、うまい中国語である必要はありません。その場で返そうとしているかどうかが見られています。

発音が下手でも、自分の口で返した一言のほうが効くんですよね🐼 言葉を覚える姿勢は、そのまま「この国のやり方を知ろうとしている」という態度として伝わります。
⑥-2 逆に、大事な場面ではあえて通訳を入れます
ところが、同じ仕事でもまったく逆にする場面があります。条件や約束を決める話です。
ここでは、私は話せる場合でも通訳を入れていました。理由は語学力ではありません。後から「言った・言わない」にならないようにするためです。誰かがあいだに入って訳した記録が残っていれば、解釈のずれが起きにくくなります。
この線引きは、そのまま中国語ゼロの方にも使えます。
・関係をつくる場面 → 自分の口で、下手でも返す
・条件を決める場面 → 迷わず通訳を入れる
中途半端がいちばん危ない、というのがこの章でいちばんお伝えしたいことです。わかったようなあいまいな返事をしてしまうと、後々の誤解や問題の原因になります。
⑥-3 トラブルのときは、話せても専門の通訳を通します
もうひとつ、逃げられない場面があります。事故や警察が絡むようなトラブルです。
ここは、本人が話せるかどうかとは関係なく、その場のための通訳者を通して、あらためて話を聞かれることがあります。自分の言葉で話したつもりでも、それが正式な記録として扱われるとは限らないわけです。
なのでトラブルのときは、「自分で説明しよう」と頑張るより、通してくれる人が用意されるのを待つほうが確実です。医療と似ていて、ここも中国語を頑張る場面ではありません。
⑥-4 子どもが覚えるかどうかは、学校で決まります
家族の話もしておきます。まず、お子さんです。
ここははっきりしていて、通う学校でほぼ決まります。ローカルの学校に入れば、放っておいても自然に覚えてきます。一方、日本人学校に通う場合は、日本人のコミュニティの中で1日が完結するので、中国語を話す機会そのものがあまり生まれません。
「上海に住んでいれば、子どもは自然にバイリンガルになる」と思われがちですが、住んでいる場所より、毎日どこで過ごすかのほうがずっと効きます。日本人学校に通いながら中国語も、と考えるなら、家庭教師やオンラインのレッスンなど、話す機会を別に作ることになります。
⑥-5 配偶者は、会社か友人に助けてもらうことになります
帯同されるご家族はどうでしょうか。
実際に多いのは、配偶者の会社のスタッフか、中国語が話せる友人に助けてもらうという形です。ここでも登場人物は変わりません。生活の細かい困りごとは、結局「頼める相手がいるかどうか」で決まります。
なので、赴任してすぐの時期に、頼れる先をいくつか作っておくことが、語学そのものより効きます。学校の保護者、習い事、日本人のコミュニティ。入口はどこでも構いません。帯同ご家族の生活の組み立て方は、こちらにまとめています。

この章のまとめ
・会食の席は通訳を挟むと冷める。下手でも自分の口で返すほうが効く
・条件を決める場面は逆。あえて通訳を入れて「言った・言わない」を防ぐ
・あいまいな返事がいちばん危ない。やるかやらないかをはっきりさせる
・トラブルは、話せてもその場の通訳者を通して聞かれることがある
・子どもは通う学校で決まる。日本人学校なら話す機会は別に作る
・配偶者は、会社のスタッフか話せる友人に助けてもらう形が多い
⑦ 20年で見た「話せないまま」の人と「話せるようになった」人の差
ここがこの記事でいちばん書きたかったところです。
20年のあいだに、中国語が話せるようになった人と、話せないまま帰任していった人を、どちらも見てきました。同じ街に住んで、同じくらいの期間を過ごして、なぜこうも分かれるのか。ずっと不思議でした。
⑦-1 差は、やる気ではありませんでした
先に結論を書きます。差がついた理由は、本人の熱心さではありませんでした。
もちろん、熱心に勉強した方もいます。ただ、20年ぶんを並べてみると、熱意の差では説明がつきません。教材を買った人が話せるようになるとも限らないし、勉強していない人が話せるようになっていることもある。
分かれ目は、もっと身も蓋もないところにありました。その人のまわりに、通訳がいたかどうかです。
⑦-2 現場の責任者は、必要に迫られて話せるようになります
わかりやすい例が、工場の現場をまとめる立場の人です。
規模の小さい現地法人では、現場に通訳が常にいるわけではありません。ところが現場は毎日動きます。段取りを伝える、不具合の原因を聞く、明日の予定を決める。通訳を待っていたら仕事が止まるのです。
そういう立場に就いた人は、歴代みな話せるようになっていきました。勉強しようと決意したからではなく、話さないと今日の仕事が終わらないからです。しかもこれは、私のいる会社に限った話ではありません。他社でも同じ傾向が見られます。
身につく中国語も特徴があります。仕事に偏った中国語です。工程や納期の話はできるのに、雑談は苦手だったりする。でも、それで困っていません。必要だった範囲が、そのまま話せる範囲になるからです。
⑦-3 専任の通訳がつく会社ほど、話せないまま終わります
逆のパターンもはっきりしています。
大きな会社の駐在員ほど、話せないまま帰っていきます。会議には通訳が付き、資料は訳されて出てきて、現地スタッフとのやり取りも間に人が入る。自分の中国語を使う場面が、1日のどこにもないのです。
これは本人の能力や熱意の問題ではありません。むしろ逆で、環境が整っているほど、中国語を覚える理由がなくなるという話です。前半でお伝えした「いまのほうが話せない人が増えている」も、たぶん同じところにつながっています。環境は年々よくなっているのですから。
⑦-4 では、必要に迫られない人はどうするか
ここまで読んで、「じゃあ自分の会社には通訳がいるから無理だ」と思われたかもしれません。でも、話は逆です。差がつく理由がわかっているなら、同じ条件を自分で作ればいいということになります。
やることは、自分で話すと決めた場面を、生活の中に1つ置くだけです。
・行きつけの店では、注文だけは自分で言う
・タクシーの運転手からの電話は、自分で出る
・週に1回のレッスンを、予定として先に入れてしまう
大事なのは量ではなく、毎日その場面が来ることです。通訳が入らない場所を、自分で用意するわけです。
そしてもうひとつ。やるならやる、やらないならやらない。中途半端がいちばん危ないというのが、私が見てきた結論です。「そのうち覚えるだろう」で数年が過ぎるのが、いちばんもったいないパターンでした。やらないと決めたなら、通訳と日本語の窓口をきちんと確保する。それも立派な選択です。
「やる」と決めた方は、ここから始めると迷いません。目的別に必要な時間の目安もまとめています。

週1回でも人と話す場面を先に予定として入れてしまいたい方は、中国語オンラインスクールおすすめ3選で比べています。
⑦-5 教材以外の入口もあります
最後に、もう少し軽い入口も置いておきます。中国ドラマです。
中国の作品には中国語字幕が標準で付いているので、聞こえた音をその場で文字で確認できます。教材を開く気力がない日でも続けられますし、上海の生活で実際に出てくる言い回しに触れられます。学習に向く作品の選び方と、日本/上海それぞれでの観る方法はこちらです。

この記事のまとめ
・中国語ゼロでも上海では暮らせる。ただし「暮らせる」と「困らない」は別
・買い物と移動は、もう言葉がほとんど要らない(予定どおりに進んでいる間は)
・家の中は交渉が残る。医療は自力で説明しない。仕事と家族の場面は逃げられない
・話せるようになるかどうかの差は、やる気ではなく「まわりに通訳がいたかどうか」
・必要に迫られない人は、自分で話すと決めた場面を1つ作る
・やるならやる、やらないならやらない。中途半端がいちばん危ない
⑧ よくある質問(FAQ)
- Q中国語がまったく話せなくても、上海で暮らせますか?
- A
暮らせます。買い物も移動もアプリで完結しますし、連絡はWeChatのテキストが中心なので、書いて送れば通じます。ただ、暮らせることと困らないことは別です。困りごとが起きたときに頼める相手(会社のスタッフ・中国語が話せる友人)がいるかどうかで、体感はまったく変わります。
- Q翻訳アプリだけで、どこまで通じますか?
- A
文字のやり取りなら、かなりの範囲で通じます。返品や交換のように、言い回しが決まっていて、急がない話が得意分野です。苦手なのは、その場で声で返す場面(運転手からの電話、会食の席)と、間違えると戻せない場面(医療)です。この2つは、アプリ以外の手段を先に用意しておいてください。
- Q子どもは、住んでいれば自然に中国語を覚えますか?
- A
通う学校によります。ローカルの学校なら自然に覚えますが、日本人学校だと1日が日本語で完結するので、話す機会が生まれにくくなります。「上海にいるから大丈夫」ではなく、毎日どこで過ごすかで決まります。機会を作るなら、家庭教師やオンラインのレッスンを別に用意することになります。
- Q配偶者が中国語ゼロです。どうすればいいですか?
- A
実際には、会社のスタッフか、中国語が話せる友人に助けてもらう形が多いです。なので語学より先に、頼れる先を作ることをおすすめします。学校の保護者、習い事、コミュニティなど、入口はどこでも構いません。中国語は「完璧に」ではなく「1回通じた」を早く作るほうが続きます。
- Q病院で言葉が不安です。どうすればいいですか?
- A
元気なうちに、日本語が通じる行き先を決めておいてください。上海には日系のクリニックがあり、受付から会計まで日本語で終わります。会社が医療アシスタンスと契約していれば、病院探しから日本語で頼めるので、赴任直後に総務へ契約の有無を確認しておくと安心です。

