
「中国は人件費が安いから、だんだん現地で作るようになる」——よく聞く説明ですよね。でも20年見てきた実感とは、けっこう違うんです🐼
海外に工場を持つ会社では、日本から輸入していた部材や加工品を、少しずつ現地で調達するように切り替えていきます。現調化(げんちょうか)と呼ばれる動きです。
赴任する前に読んだ資料には、たいてい「現地の品質が上がったから」「現地のほうが安いから」と書いてありました。ところが実際に現場に立ってみると、品質もコストも条件を満たしているのに何年も進まない時期があり、そうかと思えば、ある月を境に一気に動き出す時期がありました。
上海歴20年、製造業の現地法人でその出入りをずっと見てきました。最後に残った実感は、こうです。
現調化が進むか止まるかは、中国側の努力だけでは決まりませんでした。
進めるスイッチも、止めるスイッチも、ほとんどが日本側にありました。中国の現場が自分で握れる引き金は、3つのうち1つだけです。
この記事では、実際に現調化を動かしていた3つの引き金と、そのうち唯一こちらで握れる「納期」について書きます。安さだけを見て外注に出して失敗した話と、そのあと内製(ないせい/自社の工場で作ること)に取り込んで何をつくり込んだかまで、順番に並べます。
読み終わるころには、いま自分の会社で現調化が止まっているとしたら、それが3つのどれで止まっているのかを、その日のうちに書き出せるようになるはずです。
① 結論|現調化が進むか止まるかは、コストだけでは決まりませんでした
①-1 「安いから中国で作る」という説明は、現場の実感と違いました
現調化の説明としていちばんよく見るのは、次の2つです。
・現地の品質が上がったから、日本から運ばなくてよくなった
・現地のほうがコストが安いから、切り替えたほうが得
どちらも間違いではありません。ただ、これだけでは説明がつかない場面が、現場にはいくつもありました。
たとえば、現地の加工先の品質が安定していて、価格も日本より安く、納期も短い。条件はそろっている。それなのに、現調化の話がぱたりと止まる時期があります。逆に、現地側の条件は去年とほとんど変わっていないのに、ある月から急に「あれも現地で探せないか」「これも切り替えられないか」と話が降ってくる時期があります。
条件が変わっていないのに、動いたり止まったりする。ということは、動かしているのは条件そのものではなく、別のなにかです。
・条件がそろっているのに、何年も進まない時期がある
・条件は変わっていないのに、ある月から一気に進む時期がある
・= 現調化を動かしているのは、現地の品質やコストそのものではない
①-2 実際に動かしていたのは、3つの引き金でした
20年ぶんを並べてみると、現調化が動いた場面では、だいたい次の3つのどれかが起きていました。
現調化を動かしていた3つの引き金
・引き金1|日本側が値上げした → 進む
・引き金2|日本側の生産が大きく減った → 止まる。むしろ注文が日本へ戻る
・引き金3|現地の外注が納期を守れない → 止まる。そして内製へ戻る
上の2つは、こちらでは動かせません。日本の親会社が値上げを通告してくるかどうかも、お客さんの日本側の生産がこの先どうなるかも、中国の現場が決められることではないからです。
こちらで握れるのは、3つ目だけです。しかも3つ目は、やり方しだいで「止める側」から「進める側」に回せます。だからこの記事は、引き金1と2を正しく理解したうえで、3つ目に力を集中する話になります。

「品質を上げれば現調化は進むはずだ」と思っていた時期がありました。半分は本当で、半分は違ったんですよね🐼
①-3 この記事で書くこと
3つの引き金を「誰が決めているのか」で並べ直すと、こうなります。
| 引き金 | 現調化はどうなるか | 決めているのは | 現場にできること |
|---|---|---|---|
| 1|日本側の値上げ | 進む | 日本の親会社 | 起きた瞬間に動けるよう、候補を先に用意しておく |
| 2|日本側の生産が大きく減る | 止まる・日本へ戻る | お客さんの日本側 | 止まった理由を「自分たちのせい」と誤解しない |
| 3|現地の外注が納期を守れない | 止まる・内製へ戻る | こちら | 選び方と段取りを、仕組みにしてしまう |
このあとは、この表の上から順に見ていきます。引き金1と2は「なぜそうなるのか」を短く、引き金3は「実際に失敗して、どう作り直したか」を厚めに書きます。
この記事の担当範囲
中国ビジネスの実務は話が広いので、上海ナビでは5つに分けて書いています。
・仕事を人にどう渡すか → 現地スタッフに渡すのは作業ではなく結果
・渡したあとを数字でどう見るか → 中国工場の見える化
・お客さん(社外)をどう見るか → 顧客シェアは毎年ちがう理由で動く
・外からの危機に何をしたか → 中国工場の危機対応
・この記事 → 社内の「モノと工程」=現地調達・内製化・工程と材料の段取り
この章のまとめ
・現調化は、現地の品質やコストだけでは動かない
・動かしていたのは3つの引き金(日本側の値上げ/日本側の生産減/現地外注の納期)
・引き金1と2は日本側が決める。こちらの手にあるのは引き金3だけ
② 引き金1|日本側の値上げが、いちばん強く効きました
3つの引き金のうち、私が見てきたかぎりでいちばんはっきり効いたのが、これでした。
②-1 「安いから探す」ではなく「高くなったから探す」でした
現調化は、ふだんは静かに止まっています。ところが日本の親会社から値上げの通告が来ると、その月から空気が変わります。「あの部材、現地で作れるところはないか」「これ、いくらでできる?」という話が、あちこちから同時に降ってくるようになります。
おもしろいのは、このとき現地の加工先は何も変わっていないことです。腕が上がったわけでも、設備が新しくなったわけでもありません。変わったのは日本側の値段だけです。それでも現調化は動きます。
つまり、順番が逆なんですね。「現地が安いから探す」のではなく、「日本が高くなったから探す」。 同じ現地調達でも、きっかけの向きが違います。
・現地側の条件は、去年と何も変わっていない
・変わったのは、日本側の値段だけ
・それでも現調化は、その月から一気に動き出す
②-2 切り替えには手間がかかるので、今のままで足りるうちは誰も動きません
値段が上がっただけで、なぜここまで動くのか。私は、切り替えそのものにかかる手間の大きさが理由だと思っています。
日本から買っていたものを現地に移すのは、値札を書き換えるような作業ではありません。候補を探して、図面を渡して、試作をしてもらって、品質を見て、量産に耐えるかを確かめて、お客さんの承認をもらう。ここまでやって、ようやく1点が切り替わります。しかも途中で不良が出れば、その責任はこちらに来ます。
これだけの手間とリスクを引き受ける理由は、ふだんはありません。今のままでちゃんと納入できているなら、わざわざ危ない橋を渡る人はいないからです。
値上げは、その「今のままでいい」という選択肢を消してくれるのだと思います。動かないことのコストが、動くことのリスクを上回った瞬間に、はじめて人は動き出す。この構図は、この記事の後半でもう一度出てきます。
②-3 だから、値上げが来てから探すのでは間に合いません
値上げの通告は、こちらの都合に合わせて来てくれません。通告から実際に適用されるまでの猶予も、そんなに長くはない。そこから候補を探し始めると、試作と承認の途中で適用日が来てしまいます。
なので実務としては、逆算しておくのがいいと思っています。いますぐ切り替えるつもりがなくても、「もし来月値上げが来たら、どれから手をつけるか」を先に決めておく。候補になりそうな加工先に一度だけ声をかけて、図面を1枚見てもらっておく。それだけでも、いざというときの出足がまるで違います。
この章のまとめ
・現調化がいちばん強く動くのは、日本側が値上げしたとき
・切り替えには手間とリスクがあるので、ふだんは誰も動かない
・値上げは、動かないでいるという選択肢を消す
・だから、通告が来てから探すのでは間に合わない
③ 引き金2|日本側の生産が大きく減ると、注文は日本へ戻ります
③-1 価格でも納期でもこちらが有利なのに、止まることがあります
引き金1とは逆に、こちらの条件がどれだけ良くても現調化が止まる場面があります。
現地の加工先の価格が日本より安く、納期も短く、品質にも問題がない。数字の上では、切り替えない理由がありません。それでも話が進まない。ときには、いったん現地に移っていたものが日本へ戻ります。
はじめのころは、これが不思議でした。条件で負けていないのに、なぜ止まるのか。
③-2 空いた分を埋めるために、仕事は日本へ戻ります
理由は、たいていお客さんの日本側の事情でした。
日本の工場の生産が大きく減ると、そこに手が空きます。空けたままにはしておけないので、その分を埋める仕事が必要になる。そこで、外に出していた仕事が呼び戻されるわけです。
このとき比べられているのは、「現地と日本のどちらが安いか」ではありません。「空いている自分たちの工場を動かすか、外にお金を払うか」です。土俵がまるごと違うので、こちらがいくら値段を下げても勝てません。
・比べられているのは、現地と日本の価格ではない
・「空いた自社の工場を動かすか、外に払うか」で決まっている
・土俵が違うので、値段では取り返せない
③-3 止まった理由を、自分たちのせいだと思い込まないでください
ここでいちばん大事なのは、現場の受け止め方だと思っています。
現調化の話が止まると、現地の人たちは「うちの品質が信用されていないのかな」「値段がまだ高いのかな」と受け取りがちです。気持ちはよく分かります。目の前で話が消えたら、まず自分たちを疑いますよね。
でも、引き金1と引き金2を並べてみると分かるとおり、進むときも止まるときも、引き金を引いているのは日本側です。品質を上げれば必ず進むわけでもないし、止まったのが力不足のせいとも限りません。
ここを取り違えると、効かないところに力を注いでしまいます。品質とコストは、引き金1が引かれたときに勝つための準備であって、引き金そのものではない。これがいちばん実感に近い言い方です。
この章のまとめ
・こちらの条件が良くても、日本の工場が空くと仕事は日本へ戻る
・比べられているのは価格ではなく「空いた設備を動かすか、外に払うか」
・止まったのは力不足のせいとは限らない。ここを取り違えると、効かない努力になる
④ 引き金3|安く出せても、納期を守れない外注は使えません
ここからが、3つのうち唯一こちらで握れる引き金の話です。そして私は、ここで一度失敗しています。
④-1 安いという理由だけで外注に出して、失敗しました
現地の外注を選ぶとき、いちばん分かりやすい物差しは価格です。相見積もりを取れば数字が並ぶので、安いところが良く見えます。
もちろん、値段だけを見て決めたわけではありません。試作は見ましたし、品質の確認もしました。そのうえで、いちばん安いところに出すと決めました。
それでも、うまくいきませんでした。正直に書きます。
品質は、出してみればそれなりに作れていたんです。守られなかったのは納期でした。約束した日に上がってこない。催促すると「明日には」と言われ、その明日にも上がってこない。こちらの工程はその品物を待って止まり、後ろの予定が全部ずれていきます。
見落としていたのは、選ぶときに納期を見る物差しを持っていなかったことでした。
④-2 1ヶ月で見切りました。決め手は、お客様の生産に影響が出たことです
決定的だったのは、遅れが自分たちの工場の中で収まらなくなったことでした。納期の遅れがそのまま納入の遅れになり、お客様の生産に影響が出ました。そこまで来ると、話は「困りましたね」では済みません。補償の話になります。
そこで見切りました。出し始めてから、およそ1ヶ月でした。
短いと思われるかもしれません。ただ、判断の基準を「何回遅れたか」ではなく「どこに影響が出たか」に置くと、答えは自然に決まります。社内で吸収できているうちはまだ改善の余地がありますが、お客様の生産に影響が出た時点で、もう単価の話ではないからです。
・品質は作れていた。守られなかったのは納期だけ
・遅れが社内で収まらず、お客様の生産に影響が出た
・補償の話になった時点で、単価の議論ではなくなった
・見切りの基準は「何回遅れたか」ではなく「どこに影響が出たか」

安さで選んだぶんは、結局ぜんぶ自分たちで取り返すことになりました。授業料としては、なかなか高かったです🐼
④-3 全量を引き戻しました。内製と、それまでの外注へ
引き戻しは、一部ではなく全量です。「様子を見ながら少しずつ」はしませんでした。
戻し先は2つに分けました。ひとつは自社の内製。もうひとつは、それまで付き合いのあった既存の外注です。すべてを自社で抱えると今度はこちらの工程がパンクするので、いつも出しているところにも引き受けてもらいました。
ここは少し補足が要ると思います。この分け方ができたのは、既存の外注との関係が切れていなかったからでした。安いところへ移すときに、それまでの取引をゼロにしてしまっていたら、戻る場所がなかったはずです。
④-4 納期は、価格表に出てこないコストでした
この件で身にしみたのは、価格表に載っている数字と、実際に払うことになる金額は別物だということです。
安く出せたぶんの差額は、たしかに見積書に出ています。一方で、催促に使った時間、止まった工程、組み替えた生産計画、お客様への説明、そして補償。これらはどこにも見積もられていません。納期は、価格表に出てこないコストなのだと思います。
なので外注を選ぶ表には、価格の列のとなりに「納期を守れたかどうか」の列をひとつ足しておくといいと思っています。1回ぶんでは意味がありませんが、何回か並べると、はっきり差が出てきます。
この章のまとめ
・試作も品質も見て決めたのに、持っていなかったのは納期を見る物差しだった
・見切りの決め手は、お客様の生産に影響が出て補償の話になったこと
・引き戻しは全量。戻れたのは、既存の外注との関係を切っていなかったから
⑤ 内製に取り込んだあと、何をつくり込んだか
引き戻した仕事は、放っておいて回り始めてはくれません。内製に取り込むというのは、それまで外に出していた手間を、自分たちで引き受けるということです。ここから先が、現場でつくり込んだ話になります。
⑤-1 同時に流す型の数を、3個から5個に増やしました
内製に取り込むと、当然ながら自社の設備が足りなくなります。ここでいちばん効いたのは、1台の設備で同時に加工する型の数を、3個から5個に増やしたことでした。
ただし、これは工夫でタダに増えたわけではありません。設備そのものに手を入れて改造し、そのための治具(じぐ/加工するときに品物を固定しておく道具)も作りました。どちらも費用がかかります。
正直に書くと、内製化は「外に払っていたお金がそのまま浮く」話ではありませんでした。浮いたお金の一部を、設備と治具に先に払う。そのうえで、同じ時間でこれまでより多く流せるようになって、ようやく元が取れます。
どれだけ効率が上がったかは数字で残していないので、「何割よくなった」とは書けません。ただ、外に出していた分を受け止められるようになったのは、この改造と治具のおかげでした。
・内製化=外注費がそのまま浮く、ではなかった
・設備の改造と治具に、先にお金がかかる
・同時に流せる型を3個から5個へ。ここではじめて、戻した分を受け止められた
・どれだけ効率が上がったかは数字で残していないので、割合では書きません
⑤-2 受注の時点で、外注と技術の打合せをする形にしました
不良がいちばん出るのは、量産品ではありませんでした。新しく受けた品物と、修正が入った品物です。どちらも「初めて作るもの」だからです。
そこで、受注の時点で外注と技術の打合せをする形に変えました。作ってから直すのではなく、受ける前に注意点を洗い出して、書いたものにしておく。どこでつまずきやすいか、どこを見ておくべきかを、作り始める前に共有します。
これも数字で残しているわけではないので割合は書けませんが、新規品と修正品の不良は、目に見えて減りました。
そして意外だったのは、外注が嫌がらなかったことです。手間が増えるぶん反発されると思っていました。でも、外注にとっても作り直しのコストが下がるんですね。作り直しは、材料も時間も自分たちの持ち出しになります。事前に注意点がはっきりしていれば、その持ち出しが減る。
つまり、こちらのお願いを聞いてもらったのではなく、相手の得になる形になっていた、ということです。
なお、この打合せは図面と加工条件の話になるので、通訳を挟むと細かいところが落ちがちです。私はここを自分の中国語でやっていました。仕事で使う中国語をどう身につけるかは、ビジネス中国語スクール比較3選にまとめています。
⑤-3 順番は、声の大きさでは決めませんでした
納期をつくり込んでいくと、最後は材料の手前まで戻ってきます。自社の工程をどれだけ整えても、材料の準備が間に合わなければ、結局そこで止まるからです。
そこで、特急の品物をどの順番で準備するかを決める必要が出てきました。ここは、ほぼ確実にもめます。どの部門にも「うちのを先にやってほしい」理由があるからです。
やり方はこうしました。まず、各部門にそれぞれの立場で主張してもらいます。抑えません。そのうえで、責任者である私が、コストの面から順番を決めます。
判断の物差しは、金額に置き換えられるかどうかです。この特急品が入らなければ補償問題になるのか。逆に、これが入れば次の新規受注につながるのか。部門ごとに発生するコストを並べて、大きいところから順番をつけます。
「声が大きい順」でも「言ってきた順」でもありません。損得の大きさで決めると先に宣言しておくと、主張の中身のほうが変わってきます。
⑤-4 決めたら、動く側にお金を出しました
順番を決めるだけでは、現場は動きません。割り込まれた側にも、前倒しになった側にも、しわ寄せが出るからです。
なので、決めたらセットで出しました。外注に特急で頼むなら、その特急費用を認めます。社内で残業が必要になるなら、その残業代も認めます。目先の1件だけを見れば、たしかに高くつきます。それでもトータルで見れば、補償になる場合や、次の受注を落とす場合よりは、ずっと安く済みます。
順番を決める人が、同時にお金を出す判断もする。この2つがセットになっていないと、決めたところで誰も動かないのだと思います。
特急の順番をどう決めたか
・まず、各部門にそれぞれの立場で主張してもらう(抑えない)
・責任者が、コストに置き換えて順番を決める(入らなければ補償問題になるか/入れば次の受注につながるか)
・決めたらセットで、外注の特急費用と社内の残業代を認める
・順番を決める人が、お金を出す判断も同時にする
この章のまとめ
・内製化にはお金がかかる。設備の改造と治具に先に払って、はじめて受け止められた
・不良が出るのは量産品ではなく、新規品と修正品。受ける前に注意点を決めたら目に見えて減った
・外注が協力したのは、作り直しのコストが下がって自分の得になったから
・特急の順番は、主張させたうえで金額に置き換えて決め、決めたら費用も出した
⑥ 現場が動いたのは、お願いしたからではありません
⑥-1 この記事に出てきた「動いた場面」には、共通点がありました
ここまでに、人や会社が動いた場面が3つ出てきました。並べてみると、同じ形をしています。
動いた3つの場面と、その理由
・日本側が現調化を進めた … 値上げで、動かないでいるという選択肢が消えたから
・外注が技術の打合せに乗った … 作り直しのコストが下がって、自分の持ち出しが減るから
・現場が特急の順番に従った … 特急費用と残業代が出て、割を食わずに済むから
3つとも、こちらが熱心にお願いしたから動いたのではありませんでした。動いたほうが、相手にとって得だったから動いたんですね。
言い方を変えると、相手にとっての得が変わらないかぎり、こちらの熱意は届かないということでもあります。
⑥-2 逆に、こちらの都合だけで頼んだときは動きませんでした
思い返すと、うまくいかなかったときはいつも逆でした。
安さで選んだ外注に催促の電話をかけ続けたときが、まさにそれです。「困っています」「今日中にお願いします」と伝えても、状況は変わりませんでした。相手にとっては、こちらの納期を守っても守らなくても、自分の得も損も変わらなかったからだと思います。
だから、うまくいかないときに増やすものは、熱意ではないのだと思っています。増やすのは、相手の得が変わる材料のほうです。作り直しが減る、費用が出る、次の仕事につながる。そういう材料を先に用意してから話をすると、同じお願いでも通り方がまるで違います。
⑥-3 数字で見る話は、別の記事に書いています
もうひとつ、相手にとっての得を変える強い方法があります。数字を出すことです。
不良や納期のような「守れているかどうか」は、相手ごとに並べて毎月見せると、それだけで動きが変わります。ただ、この話は長くなるので、別の記事にまとめてあります。数え方をどこまで広げるか、誰に見せるか、といった実務は、そちらを読んでください。
▶ 中国工場の見える化|不良率2%を0.5%にした3つのやり方
この章のまとめ
・この記事で動いた3つの場面は、どれも「相手にとって得だったから動いた」
・熱意を増やしても、相手の側に得がなければ動かない
・増やすのは熱意ではなく、相手の得が変わる材料のほう
⑦ 明日から試せる3つ
最後に、今日か明日にでも手をつけられることを3つだけ挙げます。どれも道具もお金も要りません。
⑦-1 その1|いま止まっている現調化が、3つのどれで止まっているかを書き出す
止まっている案件をひとつ選んで、紙でも表計算でもいいので、次のどれに当てはまるかを書いてみてください。
・日本側の値上げがまだ来ていないから動いていない(引き金1待ち)
・お客様の日本側の生産が減って、仕事が日本へ戻っている(引き金2)
・現地の候補先が、納期を守れていない(引き金3)
1つ目と2つ目なら、こちらでできるのは準備だけです。焦って値段を下げても効きません。3つ目なら、こちらの仕事です。どこに力を入れるべきかが、これだけではっきりします。
⑦-2 その2|外注を選ぶ表に、「納期を守れたか」の列を足す
いま使っている相見積もりの表に、列をひとつ足すだけです。価格の右となりに、「前回、約束の日に上がってきたか」を○×で書いていきます。
1回ぶんでは何も分かりませんが、3回、5回とたまってくると、価格の順番と○×の順番が一致しないことが見えてきます。そこが、見積書では比べられない差が出ている場所です。
⑦-3 その3|新しく受ける仕事は、作り始める前に一度だけ技術の話をする
不良が集中するのは、いつも「初めて作るもの」です。新しく受けた品物と、修正が入った品物。この2つだけでいいので、作り始める前に一度、注意点をすり合わせる場を持ってみてください。
そのとき、相手にとっての得を先に伝えるのがコツだと思っています。「品質を上げてください」ではなく、「事前に決めておけば、作り直しをしなくて済みます」。同じ内容でも、相手の受け取り方が変わります。
私は海外の拠点で、日本から輸入している部材の現地調達(現調化)を進めたいと思っています。
いまの状況を整理したいので、次の3つを順番に私に質問してください。
① 直近で、日本側から値上げの通告があったか
② 主要なお客さんの日本側の生産が、大きく減っていないか
③ 現地の候補先は、約束した納期を守れているか
私の答えを聞いたうえで、いま現調化が止まっている原因として
①②③のどれがいちばん近いかを1つだけ挙げ、その理由も説明してください。
・③が原因の場合だけ、こちらで打てる手を3つ提案してください。
・①②が原因の場合は、「これはこちらでは動かせない」とはっきり書いてください。
そのうえで、いまのうちにやっておける準備を3つ挙げてください。
この記事の持ち帰り
・現調化を進めるスイッチも止めるスイッチも、ほとんどが日本側にある
・こちらが握れるのは納期。安さだけで選ぶと、価格表に出てこないコストで払うことになる
・人や会社が動くのは、お願いされたときではなく、動いたほうが得になったとき

20年かかって残ったのは、意外と地味な結論でした。でも、これが分かってからのほうが、力の入れどころを間違えなくなりましたよ🐼
この記事は、中国の現地法人に関わる4つのフェーズのうち、運営期の4本目「現場を回す」にあたります。進出から撤退までの全体像は中国ビジネスの実務 完全ガイド|現場20年でわかった4つのフェーズにまとめました。
⑧ 現地調達・現場の段取りに関するよくある質問(FAQ)
- Q現地調達は、何から手を付ければいいですか?
- A
いきなり金額の大きい品物から動かさないほうがいいと思っています。まずは、止まっても自社の中で吸収できる品物から試すのがおすすめです。切り替えには試作と承認の手間がかかりますし、途中で不良が出れば責任はこちらに来ます。小さく1点通してみると、自分の会社ではどこに時間がかかるのかが分かります。その経験が、値上げが来たときの出足の速さになります。
- Q中国の外注は、本当に日本より安いのですか?
- A
見積書の数字だけを比べれば、安く出てくることは多いです。ただ、実際に払うことになる金額はそれだけではありません。納期が守られなかったときの催促、止まった工程、組み替えた生産計画、お客様への説明。これらは見積書に載っていません。安いかどうかは、価格だけでなく「納期を守れたかどうか」まで並べてから判断したほうが安全だと思います。
- Q内製と外注、どちらを選ぶべきですか?
- A
どちらが正解ということはなく、私は「すべてを自社で抱えない」ようにしていました。全部を内製にすると、今度は自分たちの工程がパンクします。実際に外注から引き戻したときも、自社の内製と、それまで付き合いのあった既存の外注に分けて戻しました。安いところへ移すときも、既存の取引をゼロにしないでおくと、戻る場所が残ります。
- Q外注が納期を守ってくれません。まず何を確認すればいいですか?
- A
遅れの回数よりも、「どこまで影響が出ているか」を先に見てください。社内で吸収できているうちは、まだ話し合いと改善の余地があります。お客様の生産に影響が出て補償の話になったら、それはもう単価の議論ではありません。私はそこを基準にして見切りました。あわせて、相手にとって納期を守る得があるかも確かめてみてください。守っても守らなくても相手の損得が同じなら、催促だけでは変わりません。
- Q現地調達を進めたいのに、社内がなかなか動いてくれません。
- A
熱意で押すよりも、相手にとっての得が変わる材料を用意するほうが早いと思います。切り替えには手間もリスクもあるので、いまのやり方で納入できているうちは、誰にとっても動かないほうが得だからです。逆に言えば、値上げのようにその前提が崩れる出来事が来たときが動かしどきです。そこで一気に動けるよう、候補だけ先に用意しておくのがいいと思います。

