駐在員の税金|非居住者になると日本で変わる5つのこと【2026・上海歴20年】

お金・決済

海外赴任が決まると、住まいや学校のことで頭がいっぱいになって、税金は後回しになりますよね。しかも調べ始めると専門的なページばかりで、結局なにが自分に関係あるのか分からなくなります。

先に結論を書きます。1年以上の予定で日本を出ると、日本の税金の世界では「非居住者」という扱いになり、給与・住民税・日本に残した資産・お金の動かし方・帰国のときの5つが変わります。そして、そのほとんどは勤務先が処理してくれます。

私は2007年に上海へ来て、上海歴20年になりました。いまも上海にいて、ずっと非居住者のままです。正直に書くと、その間ずっと会社任せで、自分が何を任せているのかも知らないままでした。この記事を書くために、はじめて自分で調べています。

この記事では、会社がやってくれる範囲と、自分でやるしかない範囲を、公式の情報の出典つきで整理します。読み終わるころには、赴任前に自分で動いておくべきことが、はっきりしているはずです。

上海パンダ
上海パンダ

20年ずっと会社任せでした。あらためて調べてみたら、「自分の領域」はちゃんとあったんです🐼

この記事を読む前に
・私は税理士ではありません。書いているのは制度のしくみと、自分が体験したことです
・個別の判断は、勤務先の総務か税理士にご確認ください
・税制は変わります。数字や手続きは必ず最新の公式ページでお確かめください
・扱うのは日本側だけです。中国側の税金(個人所得税)には触れません

  1. ① 結論|「非居住者」になると、日本で5つのことが変わる
    1. ①-1 変わる5つを、先に並べます
    2. ①-2 いちばん効くのは「会社がやる範囲」と「自分がやる範囲」の線引きです
    3. ①-3 この記事で扱う範囲
  2. ② そもそも「非居住者」とは|1年以上の予定で出国したら原則こうなる
    1. ②-1 判定の入口は「1年以上の予定かどうか」です
    2. ②-2 出国前に私が自分でやったのは、住民票を抜いたことだけでした
    3. ②-3 「納税管理人」という言葉を、20年ずっと知らないままでした
    4. ②-4 判断が分かれるケースもあります
  3. ③ 変化1 給与|日本払いと現地払い、分かれ目は「どこで働いたか」
    1. ③-1 出国する日までに、会社が年末調整をします
    2. ③-2 分かれ目は「どこで払われたか」ではなく「どこで働いたか」です
    3. ③-3 役員だけは扱いがまったく違います
    4. ③-4 だから給与まわりで、私が自分ですることは何もありませんでした
  4. ④ 変化2 住民税|出国のタイミングで翌年の負担が変わる
    1. ④-1 住民税は「1月1日にどこに住んでいたか」で決まります
    2. ④-2 出国した年度ぶんは、そのまま全額残ります
    3. ④-3 5月に出た私は、住民税の「切り替わり」のど真ん中でした
    4. ④-4 翌年からは、通知そのものが来なくなりました
    5. ④-5 年をまたぐ前に出るか、あとに出るかで1年ぶん変わります
    6. ④-6 出国前に払いきれないときは「納税管理人」を届け出ます
  5. ⑤ 変化3 日本に残した資産|預金・証券口座・不動産
    1. ⑤-1 銀行口座:私は20年、そのまま維持できています
    2. ⑤-2 証券口座:私は自分名義では持たないまま20年きました
    3. ⑤-3 NISAは、届け出れば非課税のまま持ち続けられます
    4. ⑤-4 家族の中で、居住者と非居住者が分かれることがあります
    5. ⑤-5 日本の不動産を貸していると、確定申告が必要になります
    6. ⑤-6 1億円以上の資産がある人には「出国税」があります
  6. ⑥ 変化4 お金の動かし方と備え|送金と保険
    1. ⑥-1 税金は会社がやってくれても、お金を動かすのは自分です
    2. ⑥-2 医療費の備えも、どこまで会社が見てくれるかは自分で確かめる話です
    3. ⑥-3 生活費と貯蓄の全体像は、別の記事にまとめています
  7. ⑦ 変化5 帰国して「居住者」に戻るとき
    1. ⑦-1 帰国した日から、また居住者に戻ります
    2. ⑦-2 住民税は「あとから」戻ってきます
    3. ⑦-3 NISAは「帰国届出書」で再開します
    4. ⑦-4 年金と健康保険は、転入届から戻ります
    5. ⑦-5 正直に書くと、私はここを長いあいだ調べていませんでした
    6. ⑦-6 明日からできる確認リスト
  8. ⑧ よくある質問(FAQ)

① 結論|「非居住者」になると、日本で5つのことが変わる

・1年以上の予定で日本を出ると、日本の税金の世界では「非居住者」という扱いになります
・変わることは5つありますが、そのほとんどは勤務先が処理してくれます
・自分の出番が来るのは、日本に残した資産と、帰ってくるときの2か所です

①-1 変わる5つを、先に並べます

変わるのは次の5つです。「お金が入ってくるところ」→「日本に置いていくもの」→「帰ってくるとき」の順に並べています。

# 変わること 主に動くのは この記事のどこ
1 給与の課税 会社 変化1
2 住民税 会社(出国した年)+自分(届出が要る場合) 変化2
3 日本に残した資産 自分 変化3
4 お金の動かし方と備え 自分 変化4
5 帰国したとき 会社+自分 変化5

意外かもしれませんが、5つのうち自分が動かないといけないのは後ろの3つです。

①-2 いちばん効くのは「会社がやる範囲」と「自分がやる範囲」の線引きです

なぜ線引きが大事かというと、会社がやってくれる部分は、知らなくても本当に困らないからです。逆に言えば、それ以外は誰も代わりにやってくれません。

私が日本を出たのは2007年の5月。その間、日本の税金について自分で手続きをした記憶がほとんどありません。給与のことも、出国した年の住民税のことも、気がついたら会社が処理してくれていました。

それで今日まで困ったことは一度もありません。ただ、あるとき「自分は何を任せてきたんだろう」と気になりました。この記事は、その整理でもあります。

①-3 この記事で扱う範囲

この記事は日本側だけを扱います。中国側の税金は勤務先が処理する領域で、会社ごとに条件がまるで違うためです。

この記事の担当範囲
・扱う:日本側の税金と、日本に残した資産のこと
・扱わない:中国側の個人所得税/個別のケースの判断
・お金の送り方そのもの →上海からの海外送金おすすめ3選で扱っています
・医療費の備え →中国旅行の海外保険おすすめ3選で扱っています


② そもそも「非居住者」とは|1年以上の予定で出国したら原則こうなる

②-1 判定の入口は「1年以上の予定かどうか」です

非居住者(ひきょじゅうしゃ)とは、日本国内に住所がなく、1年以上続けて住んでいる場所(居所)もない人のことです。ざっくり言えば「税金の世界では、もう日本に住んでいる人として扱わない」ということですね。

判定の入口はシンプルで、出るときの「予定」で決まります。

国外における在留期間があらかじめ1年未満であることが明らかな場合を除いて原則として、所得税法上の非居住者と推定されます

出典:国税庁「No.1920 海外勤務と所得税額の精算」/令和7年4月1日現在法令等・2026年8月時点で確認

ポイントは、結果として何年いたかではなく出るときに何年の予定だったかで決まることです。1年以上の予定で赴任するなら、出国した日の翌日から非居住者、というのが原則の形になります。

②-2 出国前に私が自分でやったのは、住民票を抜いたことだけでした

出国前に自分でやったことを思い出そうとしても、役所で住民票を抜いた(海外転出届を出した)ことくらいしか出てきません。書類を自分で税務署に持っていった記憶もなく、気づいたら赴任していた、というのが正直なところです。

これは私が特別なのではなく、日本の会社から赴任する場合はよくある形だと思います。手続きの主語が「会社」になっているからです。

②-3 「納税管理人」という言葉を、20年ずっと知らないままでした

ここで、この記事でいちばん覚えて帰ってほしい言葉が出てきます。納税管理人です。

納税管理人とは
・日本にいない人の代わりに、申告書の提出・納付・納税通知書の受け取りをする人
国税(所得税)=税務署へ「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」
住民税=住んでいた市区町村へ届け出る

納税管理人を定め、その非居住者の納税地を所轄する税務署長に「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を提出する必要があります

出典:国税庁「No.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任」/令和7年4月1日現在法令等・2026年8月時点で確認

住民税のほうは自治体の窓口です。横浜市は、出国する日の10日前までに提出すること、納税管理人は親族でなくてもよい(友人や法人でもよい)ことを公開しています(出典:横浜市「納税管理人に関する手続きについて」/2026年4月1日更新・2026年8月時点で確認)。⚠️ 期限や様式は自治体で違うので、ご自身の市区町村のページで一度お確かめください。

さて、正直に書きます。私は自分に納税管理人が立っているのかどうか、いまも知りません。

会社に任せたきり、確かめないまま20年が過ぎました。それで困らなかったのは、私が要領がよかったからではありません。日本に貸している不動産もなく、自分名義の証券口座も持っていなかったからです。申告が必要になる材料が、そもそも私の側に無かった、というだけでした。

裏を返せば、日本に不動産や自分名義の口座がある方は同じようにはいきません。ここは変化3で詳しく見ていきます。

②-4 判断が分かれるケースもあります

「1年以上の予定」といっても、赴任が延びたり半年で帰ることになったりします。予定と実際がずれた場合の扱いは状況で変わりますし、日本にどれだけ生活の拠点が残っているかでも判断が分かれます。

ここは記事で答えを出せる範囲を超えています。迷ったら勤務先の総務、それでも分からなければ所轄の税務署か税理士へ。

変化を見る前に押さえておくこと
・入口は「出るときに1年以上の予定だったか」
・手続きの主語は会社になりがち。自分は住民票を抜くだけ、ということも起こる
・キーワードは「納税管理人」。要るかどうかは、日本に何を残しているかで決まる


③ 変化1 給与|日本払いと現地払い、分かれ目は「どこで働いたか」

③-1 出国する日までに、会社が年末調整をします

まず給与です。しかも第一歩は出国する前にやってきます。

1年以上の予定で海外に転勤することになった場合には、給与等の支払を行う者は、その居住者が海外に出国する日までに、年末調整をしなければなりません

出典:国税庁「No.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収」/令和7年4月1日現在法令等・2026年8月時点で確認

年末調整といえばふつうは12月ですが、海外へ出る人は出国日までに一度精算するしくみです。扶養控除や配偶者控除は出国時の状況で判定され、保険料控除も出国までに払ったぶんが対象になります。やるのは会社です。こちらは、いつもの書類を早めに書くだけですね。

③-2 分かれ目は「どこで払われたか」ではなく「どこで働いたか」です

ここがいちばん誤解されやすいところです。駐在員の給与は、全額を現地で受け取る人もいれば、一部を日本の口座に振り込んでもらう人(いわゆる留守宅手当)もいます。「日本の口座に入るぶんには、日本の所得税がかかるのでは?」と考えたくなりますよね。

ところが判定の軸は、支払われた場所ではありません。どこで働いたかです。

非居住者となった使用人の海外における勤務に対する給与等は、国内源泉所得に該当しないことから源泉徴収の必要はありません

出典:国税庁 No.2517・同上

つまり海外で働いたぶんの給与は、日本の口座に振り込まれても原則として源泉徴収されません。「どこの口座に入るか」ではなく「どこで働いたぶんか」と覚えておくと迷いません。

⚠️ ただし、出国後に日本で支払われる賞与の計算期間に日本で働いていた期間が含まれている場合、その部分は日本の所得になります。

③-3 役員だけは扱いがまったく違います

もうひとつ、はっきり分かれるのが役員です。

海外勤務に対する報酬であっても、内国法人の役員として受ける報酬は、国内源泉所得に該当することから、20.42パーセントの税率で源泉徴収が必要です

出典:国税庁 No.2517・同上

日本の会社の役員報酬は、海外で働いていても日本の所得として扱われ、20.42%が源泉徴収されます。ただし現地で支店長のように使用人として常時勤務している場合は徴収不要とされています。役員として赴任する方は、自分の立場を勤務先に確認しておくと安全です。

③-4 だから給与まわりで、私が自分ですることは何もありませんでした

私の話に戻ります。給与について、自分で何かをした記憶はまったくありません。使用人として海外で働くぶんの給与は日本で源泉徴収されないので、手続きそのものが発生しないからです。会社が出国前に年末調整をして、それで終わりでした。

ただし全員ではありません。給与が2,000万円を超える人などは、納税管理人の届出をしない場合、出国するまでに確定申告(準確定申告)が必要とされています(出典:国税庁 No.1920・前掲/2026年8月時点で確認)。自分がここに当たるかどうかは、会社の担当部署に一度聞いておくと安心です。

変化1・給与のまとめ
・出国日までに、会社が年末調整をする(12月を待たない)
・分かれ目は「どこで払われたか」ではなく「どこで働いたか」=日本払いでも原則は源泉徴収されない
役員だけは別。日本の会社の役員報酬は20.42%が源泉徴収される
・給与が高い人などは、出国前の準確定申告が必要になる場合がある


④ 変化2 住民税|出国のタイミングで翌年の負担が変わる

④-1 住民税は「1月1日にどこに住んでいたか」で決まります

住民税は所得税とまったく別のルールで動いています。ここを知らないと、出国後に「なぜまだ請求が来るのか」と戸惑うことになります。

住民税の基本ルール
1月1日(賦課期日)に住んでいた市区町村が課税します
・課税のもとになるのは、前の年1年間(1月〜12月)の所得です
・つまり住民税は、いつも1年遅れでやってきます

住民税(市県民税)は1月1日現在において市町村内に居住している人を対象に、前年の所得に基づいて、その年度分の課税をします

出典:神戸市FAQ「海外に行く予定ですが、その間住民税(市県民税)はどうなりますか。」/2024年10月31日更新・2026年8月時点で確認

この「1年遅れ」が、このあとの話すべての土台になります。

④-2 出国した年度ぶんは、そのまま全額残ります

年の途中で海外へ出ても、その年の1月1日には日本に住んでいたので、その年度の住民税は消えません。

年の途中に海外転出されても転出された年度の住民税は、全額お納めいただくことになります

出典:横浜市青葉区「海外赴任のため海外転出します。住民税はどうなりますか。」/2026年8月20日更新・2026年8月時点で確認

これが「出国したのに、まだ1年ぶん払う」と感じる正体です。払っているのは日本にいた年の所得に対する住民税で、遅れて来ているだけなんですね。

④-3 5月に出た私は、住民税の「切り替わり」のど真ん中でした

私が日本を出たのは2007年5月。ところが住民税をどう払ったのか、はっきりした記憶がありません。給与から引かれていたと思う、という程度です。会社がまとめて処理してくれていたのだと思います。

ただ、あとから調べて5月がいちばん分かりにくい時期だと気づきました。住民税を給与から天引きする「特別徴収」は6月から翌年5月までを1年として動いていて、5月はその最終月。6月から新年度が始まるからです。

給与から天引きされている人が年の途中で給与を受けなくなる場合、扱いはこう決まっています。

給与を受けなくなる時期 未徴収分の扱い
1月1日〜4月30日 本人の申し出がなくても、最後の給与から一括徴収
6月1日〜12月31日 本人の申し出があれば、最後の給与から一括徴収

(出典:京都市「国外に転出されるときの市民税・府民税・森林環境税」/2026年5月1日更新・2026年8月時点で確認。※取扱いは自治体によって異なる場合があります)

④-4 翌年からは、通知そのものが来なくなりました

そして翌年からは、住民税の通知が来て困ったという記憶がありません。制度のうえでもそうなるはずです。翌年1月1日に日本に住所がなければ、課税する市区町村がそもそも存在しないからです。

翌年1月1日現在の住所で課税されますので、引き続き海外に居住している場合は、非居住者に該当し、住民税(市県民税)は課税されません

出典:神戸市FAQ・前掲/2026年8月時点で確認

私はその後も一時帰国で日本へ戻っていますが、住民票は20年ずっと抜いたままです。そのため住民税とは、出国した年度を最後に縁が切れています。

④-5 年をまたぐ前に出るか、あとに出るかで1年ぶん変わります

ここで気づくことがあります。出国が年をまたぐ前か、あとかで、住民税が1年ぶん変わるのです。

出国のタイミングと住民税
12月31日までに出国 → 翌年1月1日に日本に住所なし → 翌年度の住民税は課税されない
1月2日以降に出国 → その年の1月1日に日本に住所あり → その年度の住民税は全額課税される

私はこれを当時まったく知りませんでした。ただ、知っていても何もできなかったと思います。赴任日を決めるのは会社だからです。

ですからこれは得をするテクニックではなく、知らないと驚く仕組みとして頭に入れておく話です。意味を持つのは、年末年始に赴任日が動きそうなときだけですね。

上海パンダ
上海パンダ

「なんで出国したのに住民税が来るの?」は、駐在員がだいたい一度は通る道です。遅れて来ているだけなんですよね🐼

④-6 出国前に払いきれないときは「納税管理人」を届け出ます

出国年度の住民税が給与から引ききれない場合、そのままにはできません。選び方は3つです。

・出国する前に、残りを全額納めてしまう
・口座振替やクレジットカード納付を使う
納税管理人を届け出て、代わりに納めてもらう

(出典:神戸市「出国を予定している方の課税と支払い」/2026年6月23日更新・2026年8月時点で確認)

住民税の届け先は税務署ではなく市区町村です。⚠️ 提出期限も自治体ごとに違います(横浜市は出国日の10日前まで)。赴任が決まったら、住民票を抜きに行くついでに窓口で聞くのが確実です。

変化2・住民税のまとめ
・「1月1日にどこにいたか」で決まり、いつも1年遅れでやってくる
・だから出国しても、その年度ぶんは全額残る/翌年度からは課税されない
年をまたぐ前か後かで1年ぶん違う。ただし赴任日は自分では選べないことが多い
・引ききれないぶんは事前納付・口座振替・納税管理人。届け先は市区町村


⑤ 変化3 日本に残した資産|預金・証券口座・不動産

ここからが自分の領域です。給与も住民税も会社が処理してくれますが、日本に置いていくものを代わりにやってくれる人はいません。

⑤-1 銀行口座:私は20年、そのまま維持できています

いちばん気になるところから。私の場合は20年ずっとそのまま使えています。凍結されたことも、「海外に住んでいるなら手続きを」と言われたこともありません。一時帰国でATMを使うのもいつもどおりです。

ただし注意が必要です。これは制度で決まっているのではなく、金融機関ごとの取扱いだからです。非居住者になったら届け出るよう求めている銀行もあります。私が困らなかったのは、たまたま自分の銀行がそうだっただけかもしれません。

⚠️ ここは一般論にせず、ご自身の銀行の公式ページでご確認ください。

⑤-2 証券口座:私は自分名義では持たないまま20年きました

ここは白状しますが、私は自分名義の証券口座を持たないまま20年が過ぎました。意識して避けたわけではなく、たまたまです。そのため、非居住者になってからの証券口座で悩んだ経験が私にはありません。

一般に、非居住者になると証券口座の扱いは大きく変わり、新しく買えない、口座の種類が変わる、そもそも維持できないといったことが起こります。しかも線引きは法律で一律に決まっているというより、金融機関ごとに違います。金融庁もNISAの説明でこう書き添えています。

取扱いの有無等については、金融機関によって異なります。具体的な手続きを含め、詳細については、口座開設先の金融機関にお問い合わせください

出典:金融庁「NISA特設ウェブサイト よくある質問」/2026年8月時点で確認

赴任が決まったら、まず自分の証券会社に「非居住者になります」と伝える。これが遠回りに見えていちばん速い、というのが調べての実感です。

⑤-3 NISAは、届け出れば非課税のまま持ち続けられます

証券口座のなかでも相談が多いのがNISAです。結論から言うと、手続きをすれば持ち続けられます。

転任の命令等のやむを得ない事由により一時的に出国する場合には、予め手続きを行うことにより、NISA口座で保有する上場株式等について、一定の期間、引き続き非課税の適用を受けることができます(出国中に新たな買付けはできません。)

出典:金融庁「NISA特設ウェブサイト よくある質問」・前掲/2026年8月時点で確認

NISAと海外赴任
出国前に手続き(継続適用届出書の提出)をしておく必要があります
持ち続けられますが、出国中に新しく買うことはできません
・帰国したら、帰国届出書を出して再開します

⚠️ 非課税のまま持てる期間には上限があります。国税庁の資料(2019年7月時点)では、継続適用届出書を出した年から5年を経過する年の12月31日まで、とされていました。ただしNISAは2024年に大きく変わっているため、現在の年数と手続きは必ず金融機関でご確認ください。

いちばんもったいないのは、手続きを知らないまま出国してしまうことです。届け出がないと、非課税で持っていたものが課税口座へ移されてしまいます。

⑤-4 家族の中で、居住者と非居住者が分かれることがあります

見落としやすいのが家族の扱いです。税金のルールは世帯ごとではなく、一人ひとりで決まります。単身赴任で家族が日本に残る場合、残る家族は居住者のままです。同じ家族でも片方は非居住者・片方は居住者になるわけですね。

口座やNISAは名義ごとに、その名義人が居住者か非居住者かで判断されると考えておくのが安全です。

⑤-5 日本の不動産を貸していると、確定申告が必要になります

ここで「納税管理人」がもう一度出てきます。国税庁は、非居住者の給与所得者でも次の所得が一定額以上あると、確定申告書の提出が必要になる場合があるとしています。

・国内資産の運用・保有による所得
・国内資産の譲渡による所得
国内の不動産等の貸付けの対価(家賃収入など)
・国内の営業所を通じて結んだ保険契約等に基づく一時金

(出典:国税庁「No.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任」/令和7年4月1日現在法令等・2026年8月時点で確認)

日本の家を人に貸して赴任する方は、ここに当たります。海外にいながら日本で確定申告をすることになるので、納税管理人を立てる意味が一気に出てくるわけです。

⑤-6 1億円以上の資産がある人には「出国税」があります

最後に、当てはまる人は限られますが知らないと大きい話を。国外転出時課税=いわゆる出国税です。

出国税(国外転出時課税)の対象になる人
・国外転出のときに、有価証券などの対象資産が合計1億円以上
・かつ原則として、国外転出の日前10年以内に国内に住所または居所があった期間の合計が5年超
→ この2つに当てはまると、まだ売っていない含み益に所得税がかかります
(出典:国税庁「国外転出時課税制度」/2026年8月時点で確認)

多くの駐在員には関係のない話ですが、日本に資産をまとまって持っている方は赴任が決まった時点で税理士に相談する価値があります。出国してから気づくと、選べる手が減ってしまいます。

変化3・日本に残した資産のまとめ
・銀行口座も証券口座も、制度ではなく金融機関ごとの取扱い。自分の口座先で確認する
・NISAは出国前の届け出で持ち続けられる。ただし出国中は新しく買えない
・税金は世帯でなく一人ひとり。日本に残る家族は居住者のまま
日本の家を貸すなら確定申告が要る=納税管理人が効いてくる
・対象資産1億円以上なら出国税。当てはまりそうなら赴任が決まった時点で相談を


⑥ 変化4 お金の動かし方と備え|送金と保険

⑥-1 税金は会社がやってくれても、お金を動かすのは自分です

税金の手続きの多くは勤務先が引き受けてくれます。ところが、お金そのものを動かす作業は誰も代わりにやってくれません。

日本の口座は残ります。でも、そこにあるお金を中国で使えるようにする、現地で貯まったお金を日本へ戻す——ここは最後まで自分でやる部分です。しかも中国は外貨のやりとりに独自のルールがある国なので、日本国内の送金と同じようにはいきません。方法の選び方と手続きは別の記事にまとめてあります。

👉 上海からの海外送金おすすめ3選

⑥-2 医療費の備えも、どこまで会社が見てくれるかは自分で確かめる話です

もうひとつ見落とされがちなのが医療費です。駐在員には会社が保険をかけてくれることが多いのですが、「どこまで対象か」は会社によって違います。よくあるのが歯科で、対象外が通例です。赴任してから歯が痛くなって初めて知るのはもったいないので、赴任前に補償の範囲を確認しておきましょう。

そして会社の保険が届かないところもあります。日本から家族や友人が訪ねてくるときと、自分が中国から別の国へ出かけるときです。ここは自分で手配します。

👉 中国旅行の海外保険おすすめ3選

⑥-3 生活費と貯蓄の全体像は、別の記事にまとめています

「税金はわかった。で、結局いくら残るのか」。これは別の話なので触れません。生活費の実態と、駐在中にどれだけ貯められるかには専用の記事があります。

👉 上海駐在は貯蓄のチャンス(家族4人の生活費)上海の物価事情(駐在員家族の予算)

変化4・お金の動かし方と備えのまとめ
・税金は会社が処理しても、お金を動かすのは最後まで自分の仕事
・中国は外貨のやりとりに独自のルールがある。方法は事前に決めておく
・会社の保険は「どこまで対象か」を赴任前に確認(歯科は対象外が通例)
・家族の訪問や他国への旅行は自分で手配する領域


⑦ 変化5 帰国して「居住者」に戻るとき

出るときの話ばかりしてきましたが、駐在にはいつか終わりが来ます。私もまだ上海にいるので先の話ですが、調べてみて分かったのは、帰るときのほうが自分でやることが多いということでした。

出国前・赴任中・帰国で「会社がやること」と「自分がやること」がどう入れかわるか 担当は、時間とともに入れかわる 出国前 会社がやる 出国日までに年末調整 住民税をまとめて徴収 自分がやる 住民票を抜く NISAの継続の届け出 証券会社に連絡する 赴任中 会社がやる 給与の支払いと処理 自分がやる 銀行・証券口座の維持 貸家があれば確定申告 (納税管理人が代理) 帰国 会社がやる 帰国後の年末調整 自分がやる 転入届を出す NISAの帰国届出書 翌々年の住民税に備える

⑦-1 帰国した日から、また居住者に戻ります

帰国して日本で暮らし始めると、税金のうえでも居住者に戻ります。給与も、帰国日以後に支給期が来るものは居住者への給与として扱われ、年末調整の対象になります(出典:国税庁「No.2518 海外出向者が帰国したときの年末調整」/令和7年4月1日現在法令等・2026年8月時点で確認)。

ここは会社側の作業で、私たちは書類を出すだけですね。

⑦-2 住民税は「あとから」戻ってきます

気をつけたいのが住民税です。1月1日にどこにいたかで決まり、課税のもとは前の年の所得でした。

帰国した年の翌年1月1日に日本に住んでいれば、そこから課税が復活します。ただしもとになるのは帰国年の所得です。年の途中で帰れば、その年に日本で得た所得は数か月分しかありません。

帰国後の住民税は「じわじわ来る」
・帰国した年 … 課税なし(前年の1月1日に日本にいないため)
・帰国の翌年 … 課税が復活。ただしもとになるのは帰国年の数か月分の所得
・帰国の翌々年 … 前年まるまる1年ぶんの所得がもとになる=ここが本番
※帰国した月やその年の所得によって変わります。実際の額は勤務先や市区町村にお尋ねください

「帰国1年目は手取りが多い気がしたのに、2年目から急に減った」と感じるのは、これが理由です。

⑦-3 NISAは「帰国届出書」で再開します

出国前に継続適用届出書を出していた方は、帰国後に帰国届出書を出せば再開できます。ここも自分で動く必要があります。

⚠️ 出しそびれると口座が閉じられてしまう扱いがあるので、帰国が決まった時点で金融機関に確認しておくと安心です。

⑦-4 年金と健康保険は、転入届から戻ります

海外に住んでいる日本人は、国民年金の強制加入の対象ではなくなりますが、任意加入で続けられます(出典:日本年金機構「海外への転出/海外からの転入」/2026年8月時点で確認)。帰国して転入届を出せば、また国内の制度に戻ります。

⚠️ ただし駐在中に厚生年金や健康保険がどう扱われていたかは勤務先の制度によって違います。帰国前に一度たしかめておくと確実です。

⑦-5 正直に書くと、私はここを長いあいだ調べていませんでした

正直に書きますが、この記事を書くまで、帰ったあとに何が起きるのかを調べたことがありませんでした。駐在にはいつか終わりが来ると分かっているのに、です。出るときも会社任せだったので、帰るときもそうなるだろうと思っていたのだと思います。

ですが、ここまで見てきたとおりです。帰国後の住民税、NISAの再開、年金と保険の切り替え——どれも会社が全部やってくれる保証はありません。出るときは会社に守られていましたが、帰るときは自分の資産の話が中心なので、当事者は自分になります。だから、まだ先の話でも早めに知っておいて損はありません。

⑦-6 明日からできる確認リスト

大がかりな準備は要りません。赴任前でも赴任中でも、次の6つを確認するだけです。

駐在員のお金・確認リスト
□ 自分に納税管理人が立っているかどうか、勤務先の総務に聞く
□ 日本に貸している不動産があるか(あれば確定申告が要る)を確認する
NISA・証券口座があるなら、金融機関に「非居住者になる/なっている」と伝える
□ 使っている銀行の非居住者の取扱いを、公式ページで見ておく
□ 会社の保険がどこまで対象か(歯科は対象外が通例)を確認する
□ 帰国が見えてきたら、帰国の翌々年の住民税を頭に入れておく

この記事の持ち帰り
・変わるのは5つ。前の2つ(給与・住民税)は会社、後ろの3つは自分
・自分の領域は「日本に残したもの」と「帰るとき」に集中している
・迷ったら、まず勤務先の総務。制度のことは公式ページ、判断は税理士へ

上海パンダ
上海パンダ

20年ぶんの答え合わせをしてみたら、「会社に任せてよかったこと」と「自分で見ておくべきだったこと」が、きれいに分かれていました🐼


⑧ よくある質問(FAQ)

Q
非居住者になると、日本の所得税はまったく払わなくなりますか?
A

「まったくゼロ」ではありません。海外で働いたぶんの給与は原則として源泉徴収されませんが、日本の会社の役員報酬や日本の不動産の家賃収入は課税されます。軸は「日本の中から生まれた所得(国内源泉所得)があるか」です。

Q
住民税は、出国したらすぐ止まりますか?
A

すぐには止まりません。1月1日にいた市区町村が前年の所得に課税するので、出国した年度ぶんは全額残ります。止まるのは翌年度からです。なお出国後は納付書を受け取る人がいなくなるため、事前に納めきるか納税管理人を届け出るかを決めておく必要があります。

Q
納税管理人は、家族でもいいのですか?
A

家族でも構いません。横浜市は「親族であることは問いません」として、友人や法人でもよいとしています。注意したいのは国税は税務署、住民税は市区町村と届出先が2つに分かれていることです。片方だけ出して安心しないようにしましょう。

Q
日本の銀行口座は、海外に住んでいても使えますか?
A

私は20年そのまま使えていますが、これは制度ではなく銀行ごとの取扱いです。非居住者になったら届け出るよう定めている銀行もあります。赴任前に、取引している銀行の公式ページを一度見ておくと確実です。

Q
帰国したら、いつから住民税が来ますか?
A

帰国した翌年の1月1日に日本に住んでいれば、そこから課税が復活します。ただしもとになるのは帰国した年の所得なので、金額が本格的になるのは翌々年です。帰国1年目の手取り感覚のまま生活設計をすると、2年目に驚きます。

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