「今年は外の環境が悪かったので、売上は仕方ありません」——危機のたびに、この報告を何度も書きました。
ただ、あとから4回ぶんを並べて読み返したとき、驚いたのは別のことでした。落ちた理由も、戻った理由も、自社の中には1つもなかったのです。
私は上海歴20年、現地法人で営業と工場運営をやってきました。その20年のあいだに、性質のまったくちがう危機を4回受けています。同じ場所で、ほぼ同じお客さんを相手に、同じような製品を作りながらです。
そのうちの1回では、同じ時期に、影響がほとんどなかったお客さんと、売上が3割近く落ちたお客さんが同時にいました。自社の材料は足りていたのにです。分かれ目は自社の中ではなく、お客さんのさらに先——お客さんが誰に売っているか、にありました。
そしてもうひとつ。危機は守る場面だと思っていましたが、4回のうち1回だけ、シェアを取り返せた回がありました。コロナのロックダウンで、工場そのものを動かせなくなったときです。
このとき、止まると分かった時点で先に作りだめをして、供給を止めずに出し続けました。その結果、そのお客さんの中での取り分は、ほぼ独占に近い状態まで上がりました。危機は、耐えるだけの時間ではありませんでした。
この記事では、その4回を「型」に分けて並べます。読み終わるころには、次に何かが起きたときに、自社の中を探すのではなく、どこを見に行けばいいかが分かるはずです🐼

売上が落ちると、どうしても社内を探しちゃうんですよね。営業が弱いんじゃないか、値段が高いんじゃないかって。でも並べてみたら、4回とも原因は外にありました。
① 結論|危機のとき売上を決めたのは、自社の実力ではありませんでした
①-1 4回の危機を、同じ場所で受けました
危機は、いつも同じ顔で来てくれません。
20年のあいだに受けた4回は、原因も、効き方も、続いた長さも、全部ちがいました。貿易摩擦で輸出の環境が変わり、海外向けの需要が細った回。コロナが広がって、市場そのものがしばらく消えた回。半導体が世界中で足りなくなった回。そして、コロナのロックダウンで工場そのものを動かせなくなった回です。
ここで書けるのは、この4回を同じ場所で受けたということです。拠点も、作っているものも、主なお客さんも、ほとんど変わっていません。条件がそろっているので、4回を横に並べて比べられます。
そして比べてみると、毎回、事前に想像していたのとは別の場所から効いてきました。
①-2 落ちた理由も、戻った理由も、自社の中にはありませんでした
売上が落ちると、まず社内を探します。営業が弱いんじゃないか、値段が高いんじゃないか、品質で負けたんじゃないか。私もそうしていました。
でも、4回ぶんを並べて分かったのは、落ちた原因は4回とも自社の中には無かったということです。
しかも「外」といっても、景気や市場全体の話ではありませんでした。もっと近い場所——お客さんのさらに先です。お客さんが誰に売っているか、その相手が何を作っているか。そこで自社の売上が決まっていました。
これが分かったのは、主なお客さんごとのシェア(そのお客さんの中で自社がどれだけ取れているか)を、20年・ほぼ全期間ぶん書き出して残していたからでした。1年分だけ見ていると「下がった」という事実しか出てきません。並べてはじめて、下がり方の種類がちがうと分かります。
なぜそうなるのか、についてはこう考えています。部材や加工品を納める立場は、お客さんの先にもうひとつお客さんがいる立場です(こういう立場を2次サプライヤーと呼びます)。自社の力で動かせる範囲が、そもそも構造的に狭いのだと思っています。断定はできませんが、4回とも同じ形だったので、私はそう受け止めています。
①-3 この記事で扱う4つの型
4つとも、名前を聞けば思い当たるものだと思います。ただ、名前で覚えていると「あのときは大変だったね」で終わってしまうので、ここでは何が起きたのかの型として並べます。
・型1 外需ショック(貿易摩擦)
関税で輸出の環境が変わって、海外向けの需要そのものが細る
・型2 需要の蒸発(コロナの流行)
世の中の動きが止まって、市場そのものがしばらく消える
・型3 部材の不足(半導体不足)
ある部材が世界中で足りなくなって、調達が詰まる
・型4 供給の停止(ロックダウン)
工場そのものを動かせない期間ができる
この4つは、起きた順に並んでいます。ただ、順番よりも大事なことがあります。毎回、前の危機で覚えたやり方が効かなかったということです。
型1で身につけた守り方は、型2では通用しませんでした。型3は、そもそも自社が困っていないのに売上だけが落ちるという、それまでと形のちがう落ち方でした。
なお、この記事は中国ビジネスの実務を4つのフェーズに分けたうちの、運営期にあたる1本です。全体像は中国ビジネスの実務 完全ガイド|現場20年でわかった4つのフェーズ【2026】にまとめています。
② 型1 外需ショック|シェアを守っても、売上は落ちます
②-1 守れたのに、売上は3割ほど落ちました
最初に来たのは、貿易摩擦でした。関税がかかって輸出の環境が変わり、海外向けの需要そのものが細った回です。
このとき、お客さんの中での自社の取り分は守れていました。競合に取られたわけでも、値段で負けたわけでもありません。それなのに、売上は3割ほど落ちました。
正直に言うと、この報告がいちばんやりにくいです。「シェアは守れています」と言った直後に「でも売上は3割減です」と続けるので、聞いているほうも困ります。守れているのか、負けているのか、どちらなのか分からないからです。
②-2 シェアは「率」、売上は「額」。別の理由で動きます
からくりは単純でした。
シェアは、そのお客さんの中で自社がどれだけ取れているかという「率」です。売上は、実際にいくら入ってきたかという「額」です。お客さん自身の生産量が減れば、率が同じでも額は減ります。
つまり、市場そのものが縮んだときは、こちらがどれだけ上手にシェアを守っても、売上は落ちます。逆に言えば、売上が落ちたからといって負けたとは限りません。
ここを1本の線で見ていると、判断を間違えます。「シェアは守れているから今年は問題ない」と思っていたら、会社に入るお金は減っていた、ということが実際に起きました。
シェアそのものが毎年ちがう理由で動くことと、その4つのパターンについては、顧客シェアは毎年ちがう理由で動く|20年追ってわかった4つのパターンにまとめています。
②-3 このとき打てた手は、ほとんどありませんでした
ここは正直に書きます。型1で、こちらから打てた手はほとんどありませんでした。
市場そのものが縮んでいるので、営業を増やしても行き先がありません。値段を下げても、数量は戻りません。お客さんも同じ理由で困っているので、無理を言える場面でもありませんでした。
やれたのは、シェアを落とさないことだけです。市場が戻ったときに、戻ってくる量のうちどれだけを取れるか。それを決めるのは、細っているあいだの取り分だからです。
ただ、これは手応えがまったくありません。がんばっても数字は落ち続けますし、周りから見れば何もしていないのと区別がつきません。効いていたと分かったのは、市場が戻ったあとでした。当時の私には、それが正しかったのかどうか判断できていませんでした。
型1(外需ショック)で分かったこと
・シェアを守っても、市場そのものが縮めば売上は落ちる
・だから危機のときにシェアだけを見ていると「守れている」と錯覚する
・率(シェア)と額(売上)は、別の線で持っておく
・この型では打てる手がほとんど無い。やれるのは、戻ったときの取り分を確保しておくことだけ
③ 型2 需要の蒸発|前半で落ちて、後半で戻りました
③-1 市場そのものが止まった半年でした
型1(外需ショック)は、需要が細る話でした。型2はちがいます。消えるのです。
細るのであれば、量は減っても注文そのものは来ます。ところがこの回は、コロナが広がって世の中の動きが止まり、市場そのものがしばらく無くなりました。前半は、はっきりと大きく落ちました。
このとき最初に困ったのは、いつまで続くのか誰にも分からないことでした。数字の落ち方は型1より急でしたが、それより「底がどこか分からない」ほうがきつかったです。半年で戻るのか、2年続くのかで、打つ手はまったく変わります。
そして後半になって、全体としては戻りました。年が終わってみれば、前半の落ち込みをある程度は取り返せた形です。
③-2 戻ったお客さんと、戻らなかったお客さんがいました
ただ、「全体として戻った」というのは、平均をならした話でしかありませんでした。
内訳を見ると、きれいに戻ったお客さんと、戻らなかったお客さんに分かれていました。しかも、こちらが特に力を入れたお客さんが戻ったわけではありません。営業の回数や、値段の下げ幅とも関係がありませんでした。
平均で見ていると、この差は消えます。戻ったお客さんの数字が、戻らなかったお客さんの数字を隠してしまうからです。
③-3 分かれ目は、お客さんのさらに先にありました
分かれ目は、またしても自社の中にはありませんでした。お客さんが誰に売っているかでした。
お客さんの先にいる相手の需要が戻れば、お客さんの生産も戻り、自社への注文も戻ります。戻らなければ、こちらが何をしても戻りません。
なぜ戻る需要と戻らない需要があったのかについては、断定できません。ただ、後ろにずれただけの需要と、そのまま消えてしまった需要があったのだろうと考えています。買うのを先送りしただけなら、あとでまとめて戻ってきます。買う理由そのものが消えたなら、戻りません。
型1との違いは、ここです。型1は全員が同じように細りました。型2は、お客さんによって明暗が分かれました。そして次の型3では、その差がもっとはっきりした形で出ます。
型2(需要の蒸発)で分かったこと
・細るのではなく消えるので、いつまで続くか分からないことがいちばんきつい
・全体の数字は戻っても、戻ったお客さんと戻らなかったお客さんに分かれる
・平均で見ていると、その差は見えなくなる
・分かれ目は、こちらの努力ではなくお客さんのさらに先にあった
④ 型3 部材の不足|同じ自社なのに、お客さんごとに影響が真逆でした
④-1 自社の材料は足りていました。それでも売上は落ちました
3回目は、半導体が世界中で足りなくなった回です。
このとき、自社が使う材料は足りていました。工場も動いていました。人もいました。作ろうと思えば、いつもどおり作れる状態です。それなのに、注文が減りました。
これは、それまでと形のちがう落ち方でした。型1も型2も、少なくとも「世の中が落ちているから、うちも落ちている」という説明はできます。ところが型3は、自社は何ひとつ困っていないのに、売上だけが落ちるのです。
ひとつだけ補足しておきます。その材料を日本から買うのか、中国の中で調達するのかは、危機とはまったく別の力学で動いていました。景気でも品質でもなく、もっと身も蓋もない理由です。調達先が切り替わる3つの引き金については、現地調達が進むとき・止まるとき|中国の現場で見た3つの引き金にまとめています。
④-2 影響が軽微なお客さんと、3割近く落ちたお客さんが同時にいました
さらに分かりにくかったのは、お客さんによって出方がまったくちがったことです。
同じ時期に、ほとんど影響のなかったお客さんと、売上が3割近く落ちたお客さんが同時にいました。同じ自社が、同じような製品を、同じやり方で納めていてです。
こうなると、社内では「担当営業の差ではないか」という話になりがちです。片方は普通に取れていて、片方は3割近く落ちているのですから、そう見えるのも無理はありません。
でも、ちがいました。
④-3 分かれ目は「客の客」が何を作っているかでした
分かれ目は、お客さんが作っている最終製品に、半導体が入っているかどうかでした。
入っていれば、お客さんは製品を組み立てられません。組み立てられなければ、こちらが納めている部材も要りません。自社の材料が足りていても、関係なく注文は止まります。入っていなければ、お客さんの生産は続くので、こちらの注文も続きます。
この図で見てほしいのは、分岐の形そのものよりも、どちらの側にも自社の判断が1つも入っていないことです。営業のやり方も、値段も、品質も、この結果には効いていません。決まっていたのは、お客さんの先にいる相手が何を作っているか、という一点でした。
こういう立場——お客さんの先にもうひとつお客さんがいる立場では、自分の売上が自分の外側で決まってしまう場面があるのだと思います。断定はできませんが、4回のうちで、この構造がいちばんはっきり出たのが型3でした。
④-4 これは、事前に読めていました
ひとつ、書いておきたいことがあります。この差は、起きてから気づいたのではありません。事前に読めていました。
もともとお客さんとは日頃から情報交換をしていたので、「この製品には半導体が入っている」「入らなければ組めない」ということは分かっていました。だから、どのお客さんが、いつごろ、どのくらい落ちるのかは、数字に出る前におおよそ見えていました。
ここでいう情報交換は、雑談のことではありません。お客さんの生産計画と、在庫がどれくらいあるかを、平時から聞いていました。自社の売上の数字だけを見ていたのではなく、その手前にある「お客さんが何を、どれだけ作る予定か」を持っていた、ということです。
これがあると、注文が減る前に気づけます。注文は、お客さんの在庫が減りきって、生産計画が下がってから、ようやく減ります。手前の数字を持っていれば、減るのが分かるのはもっと前です。
ただ、読めることと、止められることは別です。読めていても、打つ手はありませんでした。部材を用意してあげられるわけではありませんし、お客さんの生産計画を動かせるわけでもありません。
それでも、読めていたことには意味がありました。落ちる前に社内へ説明ができたことです。数字が落ちてから理由を探すと、どうしても社内に原因を求める話になります。原因が自社の中にあると誤解したまま対策を打つよりは、はるかにましだったと思っています。

このときいちばん怖かったのは、数字より社内の空気でした。3割落ちた担当が責められる流れになりかけたんです。理由が外にあると先に言えたのは、日頃の情報交換のおかげでした。
型3(部材の不足)で分かったこと
・自社が困っていなくても、売上は落ちる
・同じ自社でも、お客さんによって影響が真逆になる
・分かれ目は「客の客」が何を作っているか。自社の判断は1つも入っていない
・日頃から情報交換していれば、落ちる順番と大きさは事前に読める
・ただし読めても止められない。読めることの価値は、社内で原因を取り違えないこと
⑤ 型4 供給の停止|止めずに出した会社が、シェアを取り返します
⑤-1 止まると分かったのは、日頃見ていた数字からでした
4回目は、コロナのロックダウンで工場そのものを動かせなくなった回です。
型3までは「注文が減る」話でした。型4はちがいます。注文はあるのに、作って出すことができないのです。お客さんは待っています。それなのに、こちらが動けません。
ここで先に書いておきたいのは、止まることは、事前に分かっていたということです。勘ではありません。
やっていたのは、④でも書いたことと同じです。お客さんの生産量と、在庫がどれくらいあるかを、平時から把握していました。その数字を持っていれば、いつごろ在庫が切れて、いつごろ困るのかは計算できます。そのうえで、念のためお客さんにも直接確認しました。返ってきた答えは、こちらの読みどおりでした。
⑤-2 1ヶ月先の分を、先に作りました
分かったので、先に作りました。1ヶ月先の分です。
動きはじめたのは、かなり前でした。どのくらい前かは一律には言えません。作るのにどれだけ時間がかかるかで決まるからです。材料を手配して、加工して、仕上げるまでの時間を逆算すると、動き出す時期は自然に決まります。
なぜそこまでしたのか。理由は2つあります。
ひとつは、リスクの大きさを比べたからです。先に作れば、在庫を抱えるリスクを自社が負います。作らなければ、お客さんの生産が止まるリスクをお客さんが負います。この2つを並べたとき、後者のほうが、はるかに大きいと判断しました。お客さんの工場が止まれば、その先の相手にも迷惑がかかります。
もうひとつは、正直に書きます。この判断が、あとで信頼につながることも分かっていました。きれいごとだけで動いたわけではありません。困っている場面で止めなかった会社は、覚えてもらえます。それは、それまでの20年で何度も見てきたことでした。
⑤-3 賭けにしないために、3つに割りました
とはいえ、1ヶ月分を先に作るのは、普通に考えれば大きな賭けです。止まらなければ、行き先のない在庫が丸ごと残ります。
ここでやったのが、工程を3つに割って、それぞれ別の決め方をすることでした。
材料と、粗加工までの段階は、他のお客さん向けにも回せます。だから、ここは自分の裁量で先に進めました。外れても、在庫が死にません。別のお客さんの注文に使えばいいだけです。
問題は完成品です。ここまで作ってしまうと、そのお客さん専用になって転用が効きません。なので、完成品の部分だけは、お客さんと話して決めました。「ここまで進めておきますが、よろしいですか」と先に合意しておく、ということです。
この分け方には、もうひとつ効果がありました。材料と粗加工まで進めておけば、再開したときの納期が大幅に短くなります。お客さんから見れば、止まっていた期間のあとすぐに部材が届くことになります。生産が止まるリスクが、その分だけ小さくなります。
この図で言いたいのは、3つに分けたという事実そのものよりも、「リスクを取る/取らない」の二択で考えなかったということです。ひとつの塊として見れば大きな賭けでも、割ってみると、賭けになっている部分はごく一部でした。
ひとつ正直に書いておきます。この分け方は、そのとき考えたものです。平時からそう決めていたわけではありませんし、マニュアルがあったわけでもありません。追い込まれて、どこまでなら戻せるかを考えた結果でした。
⑤-4 止めずに出した結果、ほぼ独占に近い状態まで上がりました
結果として、供給を止めずに出し続けることができました。そして、そのお客さんの中での自社の取り分は、ほぼ独占に近い状態まで上がりました。
これは、他社が止まったから自動的にそうなった、という話ではないと思っています。リスクを引き受けて先に動いたことを、評価してもらえたのだと受け止めています。お客さんの内心なので断定はできませんが、そのあとの取引の増え方を見るかぎり、そう考えるのが自然でした。
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。危機は、守る場面ではありませんでした。取り返す場面でした。
型1から型3まで、こちらから打てる手はほとんどありませんでした。それが3回続いたので、正直なところ「危機=耐える時間」だと思い込んでいました。4回目でようやく、危機のほうが、平時よりも順位が動きやすいと気づきました。平時に相手のシェアを削るのは、本当に大変です。ところが、みんなが止まっている場面で動けると、一気に動きます。

平時に1割取り返すのって、何年もかかるんですよね。それが、止まっている場面で動いたら一気に動きました。順位が入れ替わるのは、みんなが困っているときなんだと思います。
⑤-5 動けない期間を回してくれたのは、別の場所にいた協力先でした
もうひとつ、この回で大きかったことがあります。
ロックダウンのあいだ、日本人駐在員が現地に入れない・動けない時期がありました。私自身が現場に行けません。それでも供給を止めずに済んだのは、別の場所にあった協力先が、代わりに納品を代行してくれたからでした。
拠点や協力先が1箇所に固まっていなかったことが、結果的に効きました。狙って分散させていたわけではないので、ここは運の要素も大きかったと思っています。
そして、このときの現場の回し方も、正直に書いておきます。自分たちで判断して動いてくれた、という美しい話ではありません。私は指示を出しましたし、リモートの会議を何度も何度もやりました。それでも回ったのは、お客さんとの実務を、それまでに現地スタッフへ渡してあったからです。渡していなければ、言葉の問題も、動ける速さも、協力先との関係も、すべて自分ひとりで抱えることになっていました。そうなっていたら、もっと厳しかったと思います。
型4(供給の停止)で分かったこと
・止まることは、平時から持っていた数字(お客さんの生産量と在庫)で読めた
・先に作る判断は、2つのリスクを並べて大きいほうを避けただけ
・大きな賭けに見えるものも、工程で割ると賭けの部分はごく一部になる
・止めずに出した結果、取り分はほぼ独占に近い状態まで上がった
・危機は、順位がいちばん動きやすい場面だった
⑥ 4つの型を並べて分かること|危機は「守る」より「取り返す」場面でした
⑥-1 4つを1枚に並べます
ここまでの4つを、同じ形で並べます。
| 型 | 何が起きたか | 落ちた原因があった場所 | こちらから打てた手 | 結果 |
|---|---|---|---|---|
| 型1 外需ショック (貿易摩擦) |
シェアは守れたのに売上が3割ほど減った | 市場そのものが細った | ほとんど無かった | 売上減 |
| 型2 需要の蒸発 (コロナの流行) |
前半で大きく落ちて、後半で戻った | お客さんのエンドユーザー | 戻る先を見極めることだけ | お客さんごとに明暗 |
| 型3 部材の不足 (半導体不足) |
同じ自社でもお客さんごとに影響が真逆 | 客の客が何を作っているか | 落ちる順番を先に読むこと | 3割近く落ちたお客さんも |
| 型4 供給の停止 (ロックダウン) |
注文はあるのに作って出せない | ロックダウンで工場が動かせない | あった(先に作る) | 取り分が上がった |
⑥-2 落ちた原因は、4回とも自社の外にありました
並べてみると、はっきりしていることがあります。「落ちた原因があった場所」の列に、自社が1回も出てきません。
市場、お客さんのエンドユーザー、客の客、動かせない工場。4回とも外です。営業が弱かったから落ちた回も、品質で負けたから落ちた回も、ありませんでした。
これは、自社に問題が無かったという意味ではありません。危機のときに限っては、自社の実力の差より、外の構造のほうが強く効いたということです。
だからこそ、危機のときに社内を探しはじめると、時間を無駄にします。探す場所は、自社の外です。それも、景気のような大きな話ではなく、お客さんの1つ先という、かなり具体的な場所です。
⑥-3 それでも結果が分かれたのは「取り返しにいったかどうか」でした
もうひとつ、この表で見てほしいのは、いちばん右の列だけが分かれていることです。
原因はどれも外にありました。それなのに、型4だけ結果がちがいます。何がちがったのか。
私はこう考えています。型1から型3は「買う人がいなくなる」危機で、型4は「作れる人がいなくなる」危機だった、ということです。
買う人がいなくなったら、誰が何をしても売れません。がんばって動いても、行き先がありません。ところが、作れる人がいなくなったときは事情がちがいます。注文そのものは残っているので、動ける会社のところに集まってきます。このとき動けるかどうかで、取り分が決まります。
断定はできません。4回ぶんの経験からそう見えた、という以上のことは言えないからです。ただ、次に何かが起きたときに私が最初に確かめるのは、それが「買う人が消える型」なのか「作れる人が消える型」なのかです。前者なら耐えるしかありませんし、後者なら、取り返しにいく場面です。
4つを並べて分かったこと
・落ちた原因は、4回とも自社の外にあった
・危機のときに社内を探すと、時間を無駄にする
・見に行く場所は「お客さんの1つ先」
・買う人が消える型は耐えるしかない。作れる人が消える型は、取り返しにいける
⑦ 平時にやっておくこと|中国工場の危機対応は、起きてからでは間に合いません
ここまで読んで、こう思われたかもしれません。「結局、外で決まるなら打つ手はないのでは」と。
半分は、そのとおりです。ただ、4回を通して毎回やっていたことがあって、それが型3で「事前に読めた」理由になり、型4で「先に動けた」理由にもなりました。どれも、危機が来てから始められないものばかりです。
⑦-1 お客さんの生産量と在庫を、平時から聞いておく
いちばん効いたのは、これでした。
見ていたのは、自社の売上ではありません。お客さんが何を、どれだけ作る予定か。そして、いま在庫がどれくらいあるかです。定例の打ち合わせのたびに聞いて、手元に残していました。
自社の売上は、いちばん最後に動く数字です。お客さんの在庫が減り、生産計画が下がり、それからようやく注文が減ります。手前の数字を持っていれば、動くのはもっと前になります。型4で「止まる」と読めたのも、この数字があったからでした。
ひとつ正直に書くと、この数字は「ください」と言えばもらえるものではありません。出してもらえるかどうかは、それまでの関係で決まります。ここは近道がありませんでした。
⑦-2 「客の客」が誰かを、把握しておく
次が、お客さんの先にいる相手です。
自社が納めた部材が、最終的に何になって、誰に買われているのか。ここを知っているかどうかで、危機のときの読みがまったく変わります。型3で影響が真逆になったのも、分かれ目はここでした。
調べ方は、特別なことではありません。打ち合わせのときに聞く。図面や仕様から見当をつける。展示会や現場で話に出たことを覚えておく。その積み重ねです。
ただし、全部は分かりません。教えてもらえないこともありますし、お客さん自身が把握していないこともあります。それでも、主要なお客さんの上位いくつかだけでも押さえておくと、危機のときの動き方が変わります。
⑦-3 現場の実務は、危機の前に渡しておく
3つ目は、人の話です。
型4のとき、私は現場に入れませんでした。それでも回ったのは、お客さんとの実務を、それまでに現地スタッフへ渡してあったからです。渡していなければ、言葉のことも、動ける速さも、協力先とのやりとりも、全部こちらで抱えることになっていました。
このとき痛感したのは、自分でやりすぎるのは良くないということでした。お客さんも、仕入先も、外注先も同じです。自分でやったほうが速いのは事実です。それでも、時間がかかっても渡しておくほうが、いざというときに効きます。
何をどの順番で渡すのかについては、現地スタッフに渡すのは作業ではなく結果|年100時間をゼロにした4ステップにまとめています。
⑦-4 社内と社外の数字を、危機の前から並べておく
最後に、数字です。危機が来てから数字を作りはじめても、間に合いません。比べる相手(前の年、その前の年)が無いからです。
並べていたのは2種類でした。社内の数字——工場が今どうなっているか。そして社外の数字——お客さんごとの取り分が、今どうなっているか。この2つが手元にあると、危機のときに「これは異常なのか、いつもの範囲なのか」が判断できます。
社内の数字をどう見えるようにしたかは中国工場の見える化|不良率2%を0.5%にした3つのやり方に、社外の数字、つまりお客さんごとの取り分の追い方は顧客シェアは毎年ちがう理由で動く|20年追ってわかった4つのパターンにまとめています。
この4つは、どれも地味です。やっている最中に手応えはありません。私も、平時にこれをやっていて「役に立っている」と感じたことはほとんどありませんでした。効いていたと分かったのは、毎回、危機が来たあとでした。

危機のときにやることリスト、みたいなものを作ろうとしたことがあるんです。でも結局、間に合うのは平時にやってあることだけでした。危機が来てから始められることって、思っていたより少なかったです。
この記事のまとめ
・4回の危機を並べたら、落ちた原因は4回とも自社の外にあった
・決めていたのは「客の客」——お客さんが誰に売っているか
・だから危機のときは、社内ではなくお客さんの1つ先を見に行く
・「買う人が消える型」は耐えるしかない。「作れる人が消える型」は取り返しにいける
・取り返せた回にやったのは、工程を割って賭けになる部分だけを小さくすること
・そして、間に合うのは平時にやってあることだけ(お客さんの生産量と在庫/客の客/実務を渡す/数字を並べる)
⑧ 中国工場の危機対応に関するよくある質問(FAQ)
- Q危機が来たとき、まず何から手をつければいいですか?
- A
社内を探すより先に、お客さんの1つ先を確認することをおすすめします。お客さんが誰に売っていて、その相手が今どうなっているか。そのうえで、「買う人が消える型」なのか「作れる人が消える型」なのかを見分けます。前者なら、残念ですが耐える時間になります。後者なら、動ける会社に注文が集まるので、取り返しにいける場面です。私の場合、この見分けを最初にやるようになったのは4回目からでした。
- Q「客の客」は、どうやって調べればいいですか?
- A
特別な方法はありませんでした。打ち合わせのときに聞く、図面や仕様から見当をつける、現場で出た話を覚えておく、の積み重ねです。教えてもらえないこともありますし、お客さん自身が分かっていないこともあります。全部を知る必要はありません。主要なお客さんの上位いくつかだけでも押さえておくと、危機のときの読みが変わります。
- Q先行して作るのは、危なくないですか?
- A
塊のまま考えると、危ないです。工程で割ると、危ない部分はごく一部になります。私の場合は、他のお客さんにも回せる材料と粗加工までは自分の裁量で進め、転用が効かない完成品の部分だけお客さんと話して決めました。こうすると、予想が外れても在庫が死にません。ちなみにこの分け方は、平時から決めていたルールではなく、そのときに考えたものです。
- Q在庫を持つ余裕がない会社でも、できることはありますか?
- A
あると思います。全部を作らず、転用が効くところまでで止めておくやり方は、規模が小さくても使えます。材料の手配だけ先に動く、というのも同じ考え方です。それに、お客さんの生産計画と在庫を聞いておくこと自体には、お金がかかりません。危機のときに効いたのは、実は在庫よりもこちらの情報のほうでした。
- Q4つの型のうち、いちばん厳しかったのはどれですか?
- A
型1(外需ショック=貿易摩擦の回)です。理由は単純で、こちらから打てる手がほとんど無かったからです。シェアは守れているのに売上は落ち続けるので、社内にも説明しづらく、手応えもありません。逆に、いちばん動きがあったのは型4でした。厳しさの順番と、打つ手がある順番は、必ずしも一致しませんでした。

