毎日忙しく動いているのに、いちばんやるべき仕事——売上をつくる仕事——が進まない。海外拠点にいると、この感覚に覚えのある方は多いと思います。
上海歴20年、そのあいだずっと現地法人でマネジメント側にいます。この記事は、20年のうち作業時間を数字で追いかけていた6年分の記録です。結論から言うと、渡すのは2段階でした。3ヶ月続く作業を渡して8割減らし、残りは「合っていなければ提出できない形」にしてゼロにしています🐼

「任せれば時間が空く」と言われますが、渡し方を変えるまで、最後の2割はずっと残っていました。
上海への赴任準備や生活の立ち上げは 👉 上海駐在 完全ガイド|赴任準備〜生活立ち上げの6ステップ
① 「忙しい」の中身は、たいてい毎月同じ作業だった
予定表は埋まっているのに、新しいお客さんを訪問する時間だけがない。まず、その原因を数えるところから始めました。
①-1 駐在員の時間は、見積作成のようなルーティンに消えていきます
いちばん大きかったのは、見積作成をはじめとするルーティンの事務処理でした。年に100時間です。
1件あたりは30分ほどの作業でも、毎月くり返すうちに積み上がっていきます。年100時間は、働く日にすると12日分を超える量です。忙しさの正体は、大きな仕事ではなく毎月戻ってくる小さな作業でした。
①-2 渡すのは2段階|まず8割減らし、そのあとゼロにする
効率化して速くしても、毎月来るものは毎月来ます。渡すしかありません。ただし、渡し方には2段階ありました。
第1段階は、3ヶ月続く作業を標準書つきで渡すこと。ここで大半が減ります。ただし残りは消えません。第2段階として「合っていなければ提出できない形」を作って、ようやくゼロになりました。
①-3 3種類の作業が、年100時間からゼロになりました
6年かけて、性質のちがう3種類の作業を手放しました。事務処理はほぼゼロ、数字の照合もゼロ、外注の振り分けは10時間まで下がっています。空いた時間は、新規の営業と若手の教育に回しました。
・忙しさの正体は、毎月戻ってくる小さな作業だった
・速くするのではなく渡す
・渡し方は2段階。まず大きく減らし、残りは仕組みで消す
② 第1段階|3ヶ月続く作業を、標準書をつけて渡す
最初にやったのは、毎月来る作業を手放すことです。ここで作業時間の大半が減ります。
②-1 毎月の作業が3ヶ月続いたら、渡す対象にする
渡す基準
毎月やっている作業が、3ヶ月続いたらルール化して渡す
3回も続けば、やり方は落ち着いています。落ち着いた作業は文章にできて、文章にできるものは渡せます。逆に固まる前に渡すと「この場合はどうしますか」が毎回返ってきて、自分の時間はむしろ増えます。
空いた時間を売上に向けるとき、次に効くのが「顧客ごとの動きを数字で追うこと」です。20年追ってわかったシェアの動き方は顧客シェアは毎年ちがう理由で動く|20年追ってわかった4つのパターンにまとめています。
②-2 渡す前に作業標準書を作る=相手がやりやすい環境をつくる
渡すというのは「やっておいて」と言うことではありません。作業標準書(=やり方を手順どおりに書いた紙)を用意して、相手が迷わず進められる状態にしてから渡します。
ここまでやると、見積作成のようなルーティンはだいたい8割減りました。自分がやるべき仕事——新しいお客さんへの訪問——の時間が、ここで初めて確保できます。
②-3 標準書づくりは正直しんどい。一時的に残業は増えます
⚠️ 正直に書きます。標準書を作る作業はしんどいです。毎回どう判断しているかを言葉にしないといけないので、書いている間は自分の作業が減るどころか、残業はむしろ増えました。
それでも作る価値があります。渡せるのは紙になっているものだけで、紙にしない限り毎年同じ作業が自分の手元に残り続けるからです。目の前は損をして、長い目で見れば戻ってくる作業だと考えています。
・毎月の作業が3ヶ月続いたら渡す
・渡す前に作業標準書を作り、相手が迷わない状態にする
・⚠️ 標準書づくりは重い。一時的に残業は増えるが、長い目では戻ってくる
③ それでも、作業時間はゼロにはならなかった
8割減れば十分だと思っていたのですが、残りがしぶとく残りました。この理由に気づくまでに時間がかかっています。
③-1 渡したのに、確認のたびに「合っていない」が出てくる
上がってきたものを確認すると、どこかが合っていない。どこが違うのかを私が探すことになり、渡す前より時間がかかる回もありました。渡したはずなのに、自分の仕事が残り続けている状態です。
③-2 原因は、何が合っていれば完了なのかを決めていなかったこと
手順は書いていました。でも「こうなっていれば正しい」という結果を書いていなかったのです。書いていなければ、手順をなぞり終えた時点で完了だと受け取られます。当然でした。
③-3 最終チェックをするかどうかは、人によって差が出ます
言われなくても自分で結果を確かめる人もいれば、手順どおりに作業を終える人もいます。どちらが良い悪いではなく、決めていなければ差が出るのが当たり前です。だから人に期待するのではなく、仕組みで揃えるしかないと考えました。

完了の線をどこに引くか、伝えていませんでした。悪いのは書いていなかった側なんですよね😅
・第1段階のあと、残りが消えずに残った
・原因は「何が合っていれば完了か」を決めていなかったこと
・チェックの有無は人によって差が出る。仕組みで揃えるしかない
④ 第2段階|合っていなければ、提出できない形にする
残りをゼロにするためにやったのは、たった2つです。照合する場所を決めることと、そこを通らないと私に上げられない形にすることでした。
④-1 「ここが合えば問題ない」という照合の場所を紙で決める
作業標準書に書き足した2つ
・完了の条件 何が合っていれば「できた」なのか(例:合計が元の数字と一致していること)
・確認の方法 どこを、何と突き合わせるか
求めているのは作業ではなく、正しい結果が出ていることです。それを紙の上ではっきりさせました。なお、現地スタッフに細かい条件を伝えるには言葉の精度も要ります(👉 赴任前後の商談・メールに使うビジネス中国語スクールの比較記事)。
④-2 そこが合っていないものは、私に上げられない環境にする
確認の順番も変えました。「担当が作る → 私が確認」から、「担当が作る → 担当が自分で照合する → 合っていたら私に上げる」へ。合っていないものは、そもそも提出できません。
これは責めるための仕組みではありません。完了の条件が紙にあるので、担当者は「ここまでやれば大丈夫」と分かった状態で終われます。言い訳が出ないというより、言い訳が要らなくなったという感覚に近いです。
④-3 ここまでやると、私の確認は数分で終わります
私がやるのは「照合が済んでいるか」を見るだけになりました。中身を最初から追う必要がないので、確認は数分で完了します。この形にしてから、年50時間かかっていた確認は25時間になり、最終的にゼロになりました。
・完了の条件と確認の方法を、標準書に書き足す
・照合が済んでいないものは提出できない形にする
・確認は数分で終わり、最後の2割もゼロになる
⑤ 同じ型で、次の作業もゼロにできる
中身のちがう作業にも、同じ型を当てました。下の表は、それぞれの作業が年ごとに何時間だったかの推移です。
| 作業 | はじめ | 途中 | いま | メモ |
|---|---|---|---|---|
| ルーティンの事務処理 (見積作成など) |
年100時間 | 40時間 | ほぼ0時間 | 3年かけて引き継ぎ完了(40時間は途中の年の数字) |
| 数字の照合 (合計が合っているかの確認) |
年50時間 | 25時間 | 0時間 | 途中で12.5時間という目標を置いていました |
| 外注先への振り分け | 年100時間 | 45時間 → 22.5時間 | 10時間 | 0時間が目標。6年かけて削っています |
⑤-1 数字の照合(見積の合計確認)は50→25時間、そしてゼロへ
2つ目は、出来上がった見積の合計が元の数字と合っているかを確かめる作業です。前の章と同じ形にして、年50時間が25時間、最終的にゼロになりました(途中で12.5時間という目標を置いていましたが、そこを通り越しています)。
⑤-2 外注の振り分けは100→10時間と、6年かけて削りました
3つ目は減り方がまったく違いました。年100 → 90 → 45 → 22.5 → 10時間。ゼロが今の目標です。最初の1年は1割しか減っていません。判断の要素が多く、紙に落とすのに時間がかかったからだと考えています。
同じやり方でも、効きはじめるまでの時間は作業によって違う。1年目に「合っていない」と判断していたら、やめていたと思います。
・型ができれば、中身の違う作業にも同じやり方が使える
・ただし効きはじめる時期は作業ごとに違う。1年で判断しない
⑥ 空いた時間は、売上を上げる仕事に回す
時間を空けること自体が目的ではありません。行き先を決めていないと、別の雑務で埋まって元に戻ります。私が決めていたのは、新しいお客さんへの訪問と若手の教育でした。
⑥-1 1日の訪問件数は1〜2社から2〜3社へ、3〜4社を目標にしました
事務処理に追われていたころは1日1〜2社、手放したあとは2〜3社に増えました。さらに3〜4社を目標に置いています(達成した数字ではありません)。あわせて直行直帰を推奨し、事務所に戻る時間も訪問に充てました。
⑥-2 朝会を毎日から週1にして、週4時間を営業に回しました
毎日の朝会を週1回だけにして、週4時間が空きました。1年なら200時間近くになります。
⑥-3 朝会を減らせたのは、現場が自立していたことが前提です
⚠️ これができたのは、製造側が自分たちで判断して動ける状態だったからです。順番は先に自立、その結果として会議が減る。逆にすると、時間だけ空いて問題が見えなくなります。
時間を作るという意味では、家庭側でも同じことをしています(👉 上海のお手伝いさん(阿姨)に家事を任せるときの相場・探し方)。
・行き先を決めないと、空いた時間は別の雑務で埋まる
・訪問は1日1〜2社から2〜3社へ(3〜4社は目標)
・朝会は毎日→週1で週4時間。ただし現場の自立が先
⑦ まとめ|仕事を渡す4ステップ
20年やってみて残ったのは、次の4つだけです。順番に意味があります。
⑦-1 STEP1 何にどれだけ使っているかを数える
最初の1ヶ月は、渡さずに記録するだけで十分です。作業名と時間。数字にしないと、渡す順番を間違えます。
⑦-2 STEP2 3ヶ月続いた作業を、標準書をつけて渡す
紙にする作業は重いですが、紙にしたものしか渡せません。ここで8割減ります。
⑦-3 STEP3 照合する場所を決め、合わなければ提出できない形にする
完了の条件と確認の方法まで書いて、担当が自分で照合してから上げる。残りの2割が消えるのはここです。
⑦-4 STEP4 空いた時間の行き先を、渡す前に決めておく
「時間ができたら考えよう」では、まず埋まります。行き先を決めてから渡す、が正しい順番です。

STEP2で満足して止まると、確認の時間だけがずっと残ります。STEP3までがワンセットでした😊
・STEP1 まず1ヶ月、渡さずに数える
・STEP2 3ヶ月続いた作業を標準書つきで渡す
・STEP3 照合の場所を決め、合わなければ提出できない形に(残り2割)
・STEP4 空いた時間の行き先を先に決める
この記事は、中国の現地法人に関わる4つのフェーズのうち、運営期の1本目「人を動かす」にあたります。進出から撤退までの全体像は中国ビジネスの実務 完全ガイド|現場20年でわかった4つのフェーズにまとめました。
⑧ 仕事を渡すことに関するよくある質問(FAQ)
- Q渡す仕事は、どうやって選べばいいですか?
- A
「毎月やっていて、3ヶ月続いている作業」から選ぶのがおすすめです。3ヶ月続けばやり方が落ち着き、文章にできる状態になっています。
- Q作業標準書には何を書けばいいですか?
- A
手順に加えて、完了の条件(何が合っていれば「できた」なのか)と確認の方法を書いてください。手順だけだと8割で止まり、正しいかを確かめる仕事が自分に残ります。
- Q標準書を作る時間が取れません。どうすればいいですか?
- A
最初はしんどく、一時的に残業も増えます。ただ紙にしたものしか渡せないので、いちばん時間を食っている作業ひとつだけでも先に紙にすると、その後がラクになります。
- Q渡したのに、質問がこちらに返ってくるときは?
- A
標準書に書かれていない判断が残っています。答えて終わりにせず、答えた内容を標準書に足してください。同じ質問は二度と来なくなります。
- Q朝会を減らしたら、現場が回らなくなりませんか?
- A
現場が自分たちで判断して動ける状態かどうかで決まります。私が週1回に減らせたのは製造側の自立が先に進んでいたからで、自立がまだなら会議は残しておくほうが安全です。
【関連記事】

