「今年、あのお客さんのシェアが落ちました」——営業会議でそう報告したあと、必ず聞かれるのが「で、どうやって取り返すんだ」でした。
正直に書きます。去年うまくいったやり方が、今年もそのまま効いたことは、ほとんどありませんでした。
私は上海歴20年のあいだ、現地法人で営業と工場運営をやってきました。その間ずっと、主要なお客さんごとのシェアを毎年書き出して残してきました。あとから20年ぶんを並べて読み返したとき、いちばん驚いたのは数字そのものではなく、シェアが動いた理由が毎年ちがっていたことでした。
そしてもうひとつ。シェアと売上は、同じ方向に動きません。シェアが落ちたのに売上が増えた年も、シェアが上がったのに売上が落ちた年もありました。
この記事では、その記録から見えた「シェアが動く4つの理由」と、「それでもこちらから動かせた、たったひとつの場所」を書きます。読み終わるころには、シェアの上下に一喜一憂せず、来年どこに手を打つかを絞れるようになるはずです🐼

シェアを守れ、と言うのは簡単なんですよね。でも20年ぶん並べてみたら、私が頑張ったから動いた年って、思っていたよりずっと少なかったんです。
① 結論|シェアは毎年ちがう理由で動くので、去年の対策は今年効きません
①-1 20年分を並べて、はじめて見えたことがあります
主要なお客さんごとのシェアは、毎年きちんと出していました。ただ、出したあとにやっていたのは「上がった/下がった」の報告と、下がった年の言い訳づくりだけだったと思います。
変わったのは、20年ぶんを1枚に並べてみたときでした。
大きく落ちた年、じわじわ削られた年、いったん失ってから戻した年、何もしていないのに上がった年。ぜんぶ理由がちがったんです。
これは1年分だけ見ていても、絶対に気づけませんでした。1年分の数字は「下がった」という事実しか教えてくれません。並べて初めて「今年の下がり方は、3年前の下がり方とは別ものだ」と分かります。
そして、ここが大事なところなのですが——去年効いた手を今年も打つ、というのがいちばん危ないんです。理由がちがうのに、同じ薬を出していることになります。
①-2 しかも、シェアと売上は同じ方向に動きません
もうひとつ、並べて初めて分かったことがあります。シェアの線と売上の線を隣に置くと、逆を向いている年があるのです。
シェアが落ちたのに、新しい品番の量産が立ち上がって売上は増えた年。逆に、シェアは上がったのに、お客さん自身の生産量が減って売上は落ちた年。
シェアは「そのお客さんの中で自分がどれだけ取れているか」という率です。売上は「実際にいくら入ったか」という額です。率と額は、別の理由で動きます。
ここを混ぜて1本の線で見ていると、判断を間違えます。「シェアが上がったから今年はうまくいった」と思っていたら、会社に入るお金は減っていた、ということが実際に起きました。
①-3 この記事で書くこと
先に全体像を出しておきます。
| 章 | 扱うこと | 結論を1行で |
|---|---|---|
| ② | シェアの数字をどう手に入れるか | 表計算ではなく、人からしか手に入りません |
| ③ | シェアが動いた4つの理由 | 自分のせいで動いた年は、実は少ない |
| ④ | 売上との関係 | 連動しません。別々の線で見ます |
| ⑤ | こちらから動かせる場所 | 値下げではなく「一緒に下げる」提案 |
| ⑥ | 品質と値段の関係 | 相手の要求を超えた品質は、買われません |
この記事は「中国ビジネスの実務」シリーズの3本目です
・現地スタッフに渡すのは作業ではなく結果=社内の仕事を、どう渡すか
・中国工場の見える化=渡したあとの社内を、数字でどう見るか
・この記事=社外、つまりお客さんの側をどう見るか
・現地調達が進むとき・止まるとき=社内の「モノと工程」を、どうつくり込むか
・シェアが動く理由は毎年ちがう。だから去年の対策は今年効かない
・シェアと売上は逆を向く年がある。率と額は別々の線で見る
・1年分では何も見えない。並べて初めて意味が出る
② シェアの数字は、信頼関係がないと手に入りません
②-1 何を、どの単位で数えていたか
やっていたことは単純です。そのお客さんが1年で使う総量のうち、うちが納めた量がどれくらいか。これを主要なお客さんごとに、年に1回書き出していました。
品目ごとではなく、お客さん単位です。品目まで割ると細かくなりすぎて、翌年に同じ条件で比べられなくなります。比べられることのほうが、細かさより大事でした。
ここで問題になるのが、分母のほうです。自分が納めた量は自社の帳簿を見れば分かります。でも「お客さんが1年で使う総量」は、こちらの帳簿のどこにも載っていません。
②-2 こちらが聞けないことは、現地スタッフが聞いてきてくれました
分母は、聞くしかありませんでした。
日本人のご担当者とは、打ち合わせを重ね、食事にも行き、何年もかけて関係を作っていました。そういう相手になら、「今年はどれくらい作られる予定ですか」と聞けます。教えてもらえることも多かったです。
ただ、いつでも聞けるわけではありません。コンプライアンス上、こちらから聞けない場面もあります。そういうときにどうしていたかというと——
現地スタッフから、お客さん側の中国人のご担当者に聞いてもらっていました。
これが、思っていた以上に効きました。理由は2つあります。
現地スタッフ経由のほうが、数字が正確だった理由
・実務を回しているのは、現地の担当者どうしです。日本人どうしの打ち合わせに出てくる数字より、現場で動いている数字のほうが実態に近い
・同じ言葉で、同じ立場の人に聞ける。私が改まって聞くと構えられる質問でも、担当者どうしの会話なら普通の情報交換になる
正直なところ、最初は「自分が聞けないから代わりに聞いてもらう」という消極的な理由でした。やってみたら、こちらが直接聞くよりも詳しい話が返ってきたので、途中からは意識してそうするようになりました。
②-3 だから部下にも「お客さんと食事に行きなさい」と言っていました
シェアの数字は、システムを入れれば出てくるものではありませんでした。関係がある人のところにしか、数字は届きません。
なので、部下にも同じことを勧めていました。打ち合わせだけで終わらせず、食事に行き、雑談をして、相手の担当者が何に困っているかを普通に話せる関係を作っておく。そこまでやっておくと、翌年のシェアを出すときに困りません。
これは接待をしろという話ではありません。相手の実務が見える関係を、時間をかけて作っておく、ということです。
そしてこの話は、社内の仕事を現地スタッフに渡す話とつながっています。渡す相手は、作業をこなす人ではなく、こちらには入ってこない情報が入ってくる入口でもありました。
・数えるのは「お客さんが使う総量のうち、うちが納めた割合」。品目ではなくお客さん単位
・分母はこちらの帳簿には無い。聞くしかない
・こちらが聞けないことは、現地スタッフが相手の担当者から聞いてくる。しかもそのほうが詳しい
・だから部下にも、関係づくりに時間を使わせていました
③ シェアが動いた4つの理由|自分のせいで動いた年は、実は少ない
20年ぶんを並べて、動いた年に「なぜ動いたのか」を書き足していきました。出てきたのは4つです。
③-1 地場の競合があらわれて、大きく落ちた
いちばん分かりやすいのがこれです。それまで地場のメーカーが入ってこられなかった領域に、作れるところが出てきた年がありました。
シェアは大きく落ちました。半分近くまで減った、という言い方がいちばん実感に近いです。
ただ、この年はその後戻せています。取り返せた理由は「値段を下げたから」ではありません。何をしたのかは、この記事の後半でまとめて書きます。ここでは「地場の競合の出現は、こちらの努力とは関係なく起きる」ということだけ押さえてください。
相手が悪くなったのでも、こちらが手を抜いたのでもなく、単に選択肢が増えたのです。
③-2 お客さんが「2社から買う」方針に変えた
これは、ほぼ独占に近い状態から枠を削られた年です。
きっかけははっきりしていました。先方の責任者が代わり、その方と以前から親しい付き合いのある競合先があったのです。
品質にはこちらのほうが自信がありました。相手のコストが安かったとしても、いずれ実力の差は分かるだろうとも思っていました。だから理由のない値下げはしませんでした。やったのは、品質と納期を守り、コストを下げる提案を続けるという原理原則だけです。
正直に書くと、この年に削られたぶんは、すぐには戻りませんでした。買う側が「1社に依存しない」と決めたのであれば、それは値段の話ではないからです。値下げで対抗していたら、枠も戻らないうえに単価だけ下がって終わっていたはずです。
③-3 外の出来事で、売る場所そのものを失った
こちらの品質でも値段でもなく、お客さんに届ける経路そのものが止まってしまった年がありました。
作れても運べない。運べても受け取ってもらえない。こうなると営業の打つ手はほとんどありません。数字だけ見れば「大きく落ちた年」ですが、中身はこれまでの2つとまったく別ものです。
この年のシェアは、状況が落ち着いたあとに戻りました。理由が外にあるものは、外の状況が戻れば戻ります。慌てて構造を変えなくてよかった、というのがこの年の学びです。
外の出来事で売上が動いた年を、貿易摩擦・コロナ・部材の不足・ロックダウンの4つに分けて並べた話は、中国工場の危機対応|ロックダウンでも止めずに出せた4つの型に書いています。
③-4 競合が抜けて、何もしていないのに上がった
そして、いちばん気まずいのがこれです。
競合が事業をやめて、その分がこちらに回ってきた年。私は何もしていません。にもかかわらず、社内では「よくやった」という話になります。
このときに「自分の営業力が上がった」と思ってしまうと、翌年に必ず足をすくわれます。上がった理由も、下がった理由と同じくらいちゃんと書き残しておかないといけない、と痛感した年でした。

4つ並べて気づいたんですが、シェアが動いた理由って、ほとんど自分の外側にあるんですよね。だからこそ「じゃあ自分は何ができるのか」を分けて考える必要がありました。
・地場の競合が出てくる=選択肢が増えただけ。こちらの落ち度ではない
・2社購買への転換=値段の話ではないので、値下げでは戻らない
・外の出来事=外が戻れば戻る。慌てて構造を変えない
・競合が抜けて上がった年=自分の実力と勘違いしない
・4つとも、きっかけは自分の外にありました
④ シェアと売上は連動しません|2本の線は別々に見る
④-1 シェアが落ちたのに、売上が増えた年
シェアが下がった、と報告した年に、売上は前年より増えていたことがありました。
理由は単純で、新しい品番の量産が立ち上がったからです。そのお客さんの中での取り分(率)は減ったけれど、お客さん自身が作る量が増えたので、こちらに入ってくる額は増えた、ということです。
このとき社内では「シェアは落ちたが売上は増えた」という、説明しづらい報告になりました。
④-2 シェアが上がったのに、売上が落ちた年
逆もありました。シェアは上がったのに、売上は落ちた年です。
こちらは、お客さん自身の生産量が減った年でした。取り分は増えたけれど、そもそもの母数が小さくなったので、額としては前年を下回ります。
この年がいちばん危なかったと思っています。シェアだけを見ていると「今年は取れている」という顔ができてしまうからです。
④-3 だから「率」と「額」は別の線で持ちます
20年ぶんを見て、私は2本の線を分けて持つようにしました。2つは意味がちがうからです。
2本の線が教えてくれること
・シェア(率)= そのお客さんの中での、いまの自分の位置
いま何番手にいるのか。この先どうなりそうか、という先の話
・売上(額)= 実際に会社に入ったお金
今期どうだったか、といういまの話
だから、片方だけを見て「良かった/悪かった」と言うことができません。
シェアが落ちているのに売上が良い年は、いま入っているお金に助けられているだけで、位置そのものは下がっています。逆にシェアが上がって売上が落ちた年は、いまは苦しいけれど、位置は良くなっています。打つ手はまったく別になります。
私は最初、この2つを1枚の表に並べて上下を見ていました。並べると「両方上がった/両方下がった」という読み方をしてしまい、逆を向いた年の意味を落とします。表を分けたほうが、判断を間違えませんでした。
なお、社内の数字をどう見せるかについては中国工場の見える化のほうに書いています。この記事で扱っているのは、あくまで社外=お客さん側の数字です。
・シェアが落ちても売上が増える年がある(お客さんの生産量が増えたとき)
・シェアが上がっても売上が落ちる年がある(お客さんの生産量が減ったとき)
・率は「位置」=先の話、額は「結果」=いまの話。意味がちがう
・1枚の表に並べず、線を分けて持つ
⑤ こちらから動かせたのは、値下げではなく「一緒に下げる」提案でした
ここまで、シェアが動く理由はほとんど自分の外にある、と書いてきました。では自分は何もできないのかというと、そんなことはありません。20年やって、こちらから動かせる場所はひとつだけありました。
⑤-1 理由のない値下げは、しませんでした
シェアが削られたとき、いちばん手っ取り早いのは値下げです。実際、社内からも「下げれば戻るんじゃないか」という声は出ます。
でも私はやりませんでした。理由は2つあります。
理由のない値下げをしなかった2つの理由
・一度下げた単価は、まず戻りません。次の年の交渉は、下げたあとの単価から始まります
・相手が「1社に依存しない」と決めた場合、それは値段の話ではありません。値段で対抗しても、枠は戻らないまま単価だけ下がって終わります
先ほど書いた「2社から買う方針に変わった年」が、まさにこれでした。値下げで対抗していたら、削られた枠は戻らず、残った枠の単価まで落ちていたはずです。
代わりにやったのは、原理原則の3つだけです。品質を落とさない。納期を守る。そして、コストを下げる提案を出し続ける。
ここで大事なのが、「値下げ」と「コスト削減の提案」はまったく別のものだということです。値下げはこちらの利益を削るだけで、原価そのものはまったく変わりません。コスト削減の提案は、作り方そのものを変えて原価を下げる話です。下がったぶんは、お客さんとこちらの両方に残ります。
⑤-2 自社だけの改善には限界がある=お客さんにも動いてもらう
私たちはこれをVA提案と呼んでいました。VA(バリューアナリシス)というのは、同じ機能をもっと安く実現できないかを洗い直す改善提案のことです。
ただ、やってみるとすぐ壁にあたります。自社の中だけでできるVAには限界があるのです。工程の組み替えや材料の使い方の工夫は、数年も続ければネタが尽きます。
そこで途中から、お客さんにも一緒に動いてもらうようにしました。
お客さんに動いてもらったこと(代表2つ)
・図面の要求を緩めてもらう
こちらから見ると、過剰な要求になっている箇所がけっこうあります。「ここまでの精度は本当に必要ですか」と確認して、不要だと分かった箇所を外してもらう。それだけで原価が変わります
・発注をできるだけまとめてもらう
小口の注文がバラバラに来ると、そのたびに段取りが発生します。まとめて出してもらえれば、製造の効率が上がって、そのぶんを価格に返せます
なぜお客さんが動いてくれるのか。答えは単純で、お客さん自身も毎年コスト削減の目標を背負っているからです。こちらの都合ではなく、相手の目標に直結する話にしたときだけ、相手は動いてくれました。「お願いします」では動きません。
なお、図面の要求を見直してもらうような話は、相手の設計や購買のご担当者と直接やり取りすることになります。通訳を挟むと、どうしても細かいニュアンスが落ちます。このあたりの言葉の準備についてはビジネス中国語スクール比較3選のほうにまとめています。
⑤-3 言われる前に出す。そして再来年のぶんを、先に用意しておく
ここが、20年やっていちばん効いたやり方です。
コスト削減は、放っておいても必ず先方から要求されます。競合がいる以上、お客さんにとっても毎年のコスト削減は必須だからです。
だから、言われる前にこちらから出していました。
・言われてから出す=「要求されたので下げました」になる。いくら下げるかは相手が決める
・言われる前に出す=「今年はこれを提案します」になる。何を・いつ・いくら出すかを、こちらが決められる
そして、もうひとつやっていたことがあります。
改善のネタが見つかっても、その年に全部は出しませんでした。再来年ぶんとして取っておくのです。
担当者どうしの水面下の話ですが、こうしておくと「今年は出すものがありません」という年が来なくなります。毎年かならず、何かを持って行ける状態を作っておく。これでシェアをキープしていました。
正直に書いておきます。この立場は、値上げができる立場ではありませんでした。価格の主導権そのものは、最後までこちらにはありません。持てたのは「いつ、何を出すか」というタイミングの主導権だけです。それでも、これがあるのとないのとでは、毎年の交渉がまるで違いました。

全部その年に出しちゃうと、翌年に手ぶらで行くことになるんですよね。手ぶらで行った年は、こっちが受け身になります。だから9割出して1割残す、みたいなことを毎年やっていました。
・理由のない値下げはしない。一度下げた単価は戻らない
・値下げ=利益を削るだけ/コスト削減提案=原価そのものを下げる。別ものです
・自社だけのVAは数年で尽きる。お客さんにも動いてもらう(図面の要求・発注のまとめ方)
・相手が動くのは、相手自身の目標に直結したときだけ
・言われる前に出す。さらに再来年ぶんを残しておく=毎年かならず手土産がある状態にする
⑥ 良い物が売れるとは限りません|相手の要求を超えた品質は買われない
⑥-1 高性能なものを提案して、負けたことがあります
これは、いま思い出しても悔しい話です。
従来品より性能を上げたものを提案した年がありました。長く使えるようになるので、こちらとしては自信を持って持って行きました。技術的には、間違いなく良いものでした。
結果は、採用されませんでした。
理由は2つありました。ひとつは、相手が求めていた水準が、そこまで高くなかったこと。もう少し正確に言うと、相手の使い方では従来品でも十分もっていた、ということです。長く使えるという価値が、相手にとっての価値になっていませんでした。
もうひとつは、その従来品が値引きされたことです。「同じくらい使えて、しかも安い」となれば、勝負はつきます。
⑥-2 過剰品質は、相手にとって「払う理由のない上乗せ」でした
この一件で分かったのは、品質は高ければ高いほど評価される、というものではないということでした。
品質の見え方は、こちらと相手で違う
・こちら側から見ると……性能を上げた=価値が増えた=高くても納得してもらえるはず
・相手側から見ると……必要な水準はもう満たしている=そこから先は払う理由のない上乗せ
これが「過剰品質」です。そして面白いのは、この過剰品質が、お客さんの図面の側にもあるということでした。ひとつ前の章で「図面の要求を緩めてもらう」と書いたのは、まさに同じ話です。
相手の図面の過剰品質を外せばコストが下がる。こちらの提案が過剰品質だと買われない。同じことを、向きを変えて見ているだけでした。
だから私は、品質を「高いか低いか」ではなく、「相手の要求水準とどれだけ離れているか」で見るようになりました。足りなければ論外。ぴったりが最強。超えた分は、たいてい買ってもらえません。
⑥-3 売るのは商品ではなく、解決だと考えるようになりました
負けた原因を突き詰めると、提案の順番が逆だったのだと思います。
こちらは「良いものができました」から始めていました。本当は「相手がいま何に困っているか」から始めるべきでした。
日頃から情報交換はしていたので、お客さんの悩み自体は分かっていたつもりでした。ただ、悩みが分かっていることと、その悩みを解決するのに必要な水準がどこかを知っていることは、別だったのです。ここが抜けていました。
それ以来、営業は商品を売るのではなく、解決を売るというのを自分のモットーにしています。
提案の前に確認するようにしたこと
・お客さんがいま困っているのは、具体的にどの場面か
・それを解決するのに、必要な水準はどこまでか(どこからは不要か)
・その水準を、いまいくらで手に入れているのか
3つ目まで確認できると、提案が「良いものです」ではなく「この困りごとが、この値段で解決します」に変わります。同じ製品でも、通り方がまったく違いました。
⑥-4 自社に無いものは、どこかと組んで売っていました
解決を売る、と決めると、すぐに次の壁が来ます。自社で作れるものだけでは、相手の困りごとを解決しきれないのです。
なので、自社で作るものと、外から仕入れて納めるものの両方を持っていました。自社に無い機能は、毎年どこかと組んで売っていた、というのが実態です。単独で勝てた年は、ほとんどありません。
組む相手をどう見つけていたかというと、特別な方法はありません。日頃から、いろいろな業者さんやお客さんとコンタクトを取り続けて、アンテナを張っていただけです。
ひとつだけ意識していたのは、いまの仕入れ先との関係に驕らないことでした。長く付き合っている相手がいると、それで足りている気になります。でも相手の困りごとは毎年変わるので、こちらの手札も毎年増やしておかないと、いずれ応えられなくなります。
新しい技術や会社をまとめて見られる場は、意識して足を運んでいました。上海で毎年開かれている大きな展示会もそのひとつです(WAIC 2026 上海の回り方)。
・良い物が売れるとは限らない。相手の要求水準を超えた分は、払う理由のない上乗せになる
・過剰品質は、相手の図面の側にもある。外せばコストが下がる
・品質は「高いか低いか」ではなく「相手の要求水準との距離」で見る
・悩みが分かることと、必要な水準を知ることは別だった
・商品ではなく解決を売る。そのために、自社に無いものは組んで売る
⑦ 明日から試せる3つ
ここまで20年ぶんの話を書いてきましたが、最初から20年ぶんある人はいません。私も最初の年は、ただの1枚のメモでした。そのメモを毎年足していっただけなので、始めるのは今年からで十分です。
⑦-1 その1|お客さんごとのシェアを、いまの感覚でいいので書き出す
正確な数字から始めようとすると、たいてい始まりません。「たぶん半分くらい」で構いません。
大事なのは正確さではなく、毎年同じ基準で書くことです。品目ごとに細かく割らず、お客さん単位で1つの数字にする。細かくすると、翌年に同じ条件で比べられなくなります。
分母(相手が使う総量)が分からなければ、そこは空欄でも構いません。空欄だと分かること自体が収穫です。その数字は帳簿ではなく人が持っていますので、誰に聞けば分かりそうか、そのメモも一緒に書いておくといいと思います。
⑦-2 その2|動いた理由を、毎年1行だけメモする
これが、いちばん効きます。
数字だけ残しても、3年後の自分は「なぜこの年に落ちたのか」を絶対に思い出せません。私も、理由を書いていなかった年の数字は、いまだに読み解けないままです。
書くのは1行で十分です。そして「相手が決めたこと/市場が動いたこと/外の出来事」のどれなのかも一緒に残しておくと、あとで並べたときに一気に意味が出ます。
もうひとつだけ。上がった年こそ書いてください。競合が抜けて上がった年を「自分の実力」として記憶してしまうと、翌年の判断を必ず間違えます。
⑦-3 その3|売上とシェアを、別々の線で見る
同じ表に並べないでください。並べると「両方上がった/両方下がった」で読んでしまい、逆を向いた年を読み落とします。
表を分けて、最後に「向きが逆だった年」だけを拾い出す。この作業をやるだけで、来年どこに手を打つかがかなり絞れます。
表計算でも十分できますが、手元に納入実績のデータがあるなら、この形に整えるところはAIに任せてしまうのが早いです。Claude Codeを使っている方は、そのまま貼って使ってください。
手元にある「お客さん別・年別の納入額(または納入量)」の表を渡します。
次の2つを、別々の表として作ってください。
① 率の表:お客さん別 × 年 で、私が入力する推定シェア(%)を並べる表
・右端に「その年に動いた理由」を1行だけ書く欄をつける
・その隣に「相手が決めたこと/市場が動いたこと/外の出来事」を選ぶ欄をつける
② 額の表:お客さん別 × 年 で、納入額(または納入量)を並べる表
作ったあとに、①と②で動く向きが逆になっている年だけを抜き出して、
「どのお客さんの、どの年か」の一覧にしてください。
この記事の持ち帰り
・シェアは毎年ちがう理由で動く。去年の対策を、今年そのまま使わない
・動いた理由の大半は自分の外にある。上がった年も、理由を書き残す
・シェアと売上は逆を向く年がある。率は位置、額は結果。線を分けて持つ
・こちらから動かせるのは値下げではなく「一緒に下げる」提案。相手の目標に直結させる
・言われる前に出す。そして再来年のぶんを残しておく
・良い物が売れるとは限らない。相手の要求水準との距離で品質を見る

20年ぶんあるから言えることですけど、いちばん価値があったのは数字じゃなくて、その横に書いた1行のメモのほうでした。数字は誰でも出せますが、あの年に何があったかは、書いた人にしか残らないんですよね🐼
この記事は、中国の現地法人に関わる4つのフェーズのうち、運営期の3本目「顧客を守る」にあたります。進出から撤退までの全体像は中国ビジネスの実務 完全ガイド|現場20年でわかった4つのフェーズにまとめました。
⑧ 顧客のシェア管理に関するよくある質問(FAQ)
- Qシェアが今いくつなのか、そもそも分かりません。何から始めればいいですか?
- A
自社の納入量だけ先に出してください。それは帳簿にあります。そのうえで「相手が1年でどれくらい使っていそうか」を、感覚で構わないので置いてみてください。最初の年は精度がなくて当然です。翌年に同じやり方でもう一度出せることのほうが、初年度の正確さより大事です。
- Qお客さんは、自社の生産量を教えてくれるものですか?
- A
相手と関係ができていれば、教えてもらえることは多いです。ただし、こちらから聞けない場面もあります。私の場合は、現地スタッフからお客さん側の担当者に聞いてもらっていました。実務を回しているのは担当者どうしなので、そちらのほうが実態に近い数字が返ってきます。数字は仕組みではなく、関係のあるところに届きます。
- Q「値下げ」と「コスト削減の提案」は、何が違うのですか?
- A
値下げは、原価はそのままでこちらの利益だけを削る行為です。一度下げた単価は、まず戻りません。コスト削減の提案は、作り方そのものを変えて原価を下げる話なので、下がったぶんがお客さんとこちらの両方に残ります。同じ「安くなる」でも、翌年の交渉の始まり方がまったく変わります。
- Qシェアが落ちました。まず何を確認すればいいですか?
- A
落ちた理由が、相手が決めたことなのか、市場が動いたことなのか、外の出来事なのかを先に分けてください。打つ手がそれぞれ違います。相手が方針を変えたのなら値段では戻りません。外の出来事なら、外が戻れば戻ることもあります。理由を分けないまま値下げに走るのが、いちばん損が大きいパターンでした。
- Q提案を続けても、関係が良くならないときはどうしていましたか?
- A
提案の中身が「こちらの都合」になっていないかを見直していました。相手が動いてくれたのは、相手自身の目標に直結したときだけです。それでも動かないときは、無理に押さずに品質と納期を守り続けました。削られた枠がすぐには戻らない年もあります。それでも原理原則を崩さずにいると、相手の事情が変わったときに声がかかります。

