「不良を減らせ」「納期を守らせろ」——中国の現地法人で運営に関わっていると、毎月この2つに追いかけられますよね🐼
私も同じでした。数字を集めて、会議で配って、「意識を高めてほしい」とお願いする。それでも不良も納期遅延も、なかなか減りませんでした。いま思えば当然で、お願いだけでは人は動かないんですよね。
流れが変わったきっかけは、立派なシステムではありません。数える範囲を広げたことと、その数字を外注別に公開したこと。お金はほとんどかかっていません。この2つを含む「3つのやり方」を続けた結果、不良の発生率は2%から0.5%まで下がりました。
この記事では、上海歴20年の私が製造業の現地法人で実際にやってきた「数字で現場を回す」方法を、費用ほぼゼロで明日から試せる形にしてまとめます。

数字を出す前と後で、外注さんの動き方がここまで変わるとは思っていませんでした🐼
① 結論|数字は「作る」より「どこまで含めるか」で効き方が変わる
①-1 数字はあったのに、現場が動かなかった話から始めます
先に正直に書くと、私は「数字を出せば現場は動く」と思っていた時期があります。不良の記録も納期の記録も、集計はしていました。会議で配ってもいました。それでも現場は動きませんでした。
当時の私は、動かない理由を「意識の問題」だと考えていました。でも振り返ると、原因は数字の側にありました。集計の線引きが実態とずれていて、現場の誰も「自分の話」として受け取れない数字になっていたんです。
①-2 線を引き直した瞬間に、同じ数字が動き出しました
やったことは3つだけです。数える対象を広げる。率を相手別に割る。数字を見せる場を決める。どれも「新しい数字を作った」わけではなく、すでにある数字の範囲と見せ方を変えただけです。
それだけで、同じ工場・同じメンバーのまま、不良の発生率は2%から0.5%まで下がりました。数字が「管理部門の資料」から「現場が自分ごととして見るもの」に変わったのが大きかった、と私は考えています。
①-3 この記事で書く3つのやり方(全体像)
| やり方 | かかった費用 | 使った道具 | 起きたこと |
|---|---|---|---|
| 1. 不良率の定義を広げて外注別に毎月出す | ほぼゼロ | 既存の不良記録と表計算 | 発生率 2%→0.5% |
| 2. 納期遵守率を外注別に毎月出す | ほぼゼロ | 既存の納期記録と表計算 | 話が「お願い」から「事実の確認」に変わった |
| 3. 数字を見せる場を決める(朝会・月1定例) | ほぼゼロ | 既存の会議枠 | 対策がその場で決まり、翌月に持ち越さなくなった |
なお、仕事そのものを現地スタッフへ渡していく手順は、前回の記事現地スタッフに渡すのは作業ではなく結果|年100時間をゼロにした4ステップに書きました。前回が「渡す」話、本記事は渡した後の仕事がうまく回っているかを、数字でどう見るかの話です。
そして、そもそもどの仕事を社内に持つか(現地調達と内製化)、工程や材料の段取りをどう作るかは、現地調達が進むとき・止まるとき|中国の現場で見た3つの引き金にまとめました。
この章のまとめ
・数字を出しても動かなかった原因は、意識ではなく数字の線引きだった
・新しい数字は作っていない。範囲と見せ方を変えただけ
・3つとも費用はほぼゼロ。結果は発生率2%→0.5%
② やったこと1|不良率を外注別に、毎月出す
②-1 最初は「作り直しになった不良」だけを数えていました
もともと不良率の集計はありました。ただし数えていたのは、廃棄や作り直しになった不良だけです。
この数え方だと、率はとても小さく出ます。会議では「今月も大きな問題はありません」で終わる。ところが現場の実感は違います。毎日のように何かしらの手直しや判定待ちが起きている。数字と実感がずれているので、誰もその数字を信用していませんでした。ここが私の最初の失敗です。
同じ「数字で見る」やり方は、工場の中だけでなく顧客の側にも使えます。顧客ごとのシェアがどう動くかは顧客シェアは毎年ちがう理由で動く|20年追ってわかった4つのパターンで整理しています。
②-2 特別採用・手直しできた不良まで、数える対象を広げた
そこで、数える対象の線を引き直しました。作り直しが必要な不良だけでなく、特別採用できた不良と、手直しして使えた不良まで、全部数えることにしたんです。
特別採用(規格からは外れているものの、客先の了承を得てそのまま使うこと)や手直し品は、最終的に「使えた」ので、それまでの集計では不良に数えていませんでした。でも現場から見れば、どれも「一度つまずいた物」です。ここまで含めて初めて、数字が現場の実感と重なりました。
②-3 外注別に毎月出したら、2%が0.5%まで下がりました
数える範囲を広げたうえで、発生率を外注先ごとに分けて、毎月同じ形式で出し続けました。個々の不良の情報は毎日共有し、率としての集計は月に1回まとめる、という二段構えです。
外注別に割ると、「どこで・何が起きているか」がはっきりします。全体でならすと見えなかった差が、相手別にすると一目で出るんです。この形にしてから、当初2%前後だった発生率は、最終的に0.5%まで下がりました。
それまで数字に乗っていなかった不良が全部見えるようになったことで、再発対策が「どの外注の・どの種類の不良を減らすか」まで具体的になりました。ただ、いま振り返ると、効いた理由はもう1つあったと思っています。
②-4 外注どうしが、お互いを意識し始めました
外注別に数字を出して各社に見せるようにすると、自分の成績が他社と並んだ状態で見えます。すると、こちらから何も言わなくても「あそこより悪い」と分かった外注が、自分から手を打ち始めました。
背景にあるのは受注です。品質が安定している先に多く任せたくなるのは、発注する側として自然なことですよね。その関係が数字を通して見えるようになると、不良を減らすことが次の受注につながると各社が理解します。結果として、外注どうしが競い合うような状態が生まれました。
ここが、私がこの20年で学んだ一番大事なところかもしれません。お願いだけでは、人は動きません。「品質を上げてください」と頭を下げ続けるより、相手の利益に直結する状況を作るほうが、はるかに早く現場が変わります。数字を外注別に公開したことは、その状況づくりそのものでした。
この章のまとめ
・作り直しだけ数えていた間は、数字が信用されなかった
・特別採用・手直しまで広げると、数字が実感と重なる
・「外注別×毎月」で出し続けて、発生率2%→0.5%
・外注別に見せると、受注をめぐって各社が自分から動き出す
③ やったこと2|納期は「意識」ではなく「数字」を突きつける
③-1 「納期意識を高めてほしい」と言い続けても、直りませんでした
納期遅延への対応も、最初は精神論でした。外注先との打ち合わせのたびに「納期意識を高めてほしい」とお願いする。相手は「わかりました、がんばります」と答える。そして翌月も同じ遅延が起きる。この繰り返しです。
いま思えば当然で、「意識」はお互いに測れないので、改善したかどうかを誰も確認できないんですよね。お願いした側も、された側も、翌月には忘れています。
③-2 外注別の納期遵守率を、毎月数字で見せる方式へ
そこで、不良率と同じ形に切り替えました。納期の遵守率を外注先ごとに毎月数値化して、そのまま相手に見せる方式です。
使うのは既にある納品記録だけなので、ここも費用はかかっていません。約束の期日に対して守れた割合を、外注別に並べる。それを毎月、同じ形式で更新する。仕組みとしてはそれだけです。
③-3 数字にすると、話が「お願い」から「事実の確認」に変わります
遵守率を並べると、守れている外注とそうでない外注の差が一目で出ます。すると打ち合わせの中身が変わりました。「がんばってください」ではなく、「先月はこの率でした。どの案件で、何が起きましたか」から話が始まるようになったんです。
数字には言い訳の余地がありません。相手を責めるためではなく、事実を共有して原因を一緒に探すための土台として、毎月の数字は効きました。
そして納期でも、不良率と同じことが起きました。遵守率を外注別に並べると、守れていない会社は自分の位置が見えてしまう。次の仕事をどこに任せたいかは、その数字を見れば誰にでも想像がつきます。ここでも動かしたのはお願いではなく、数字が受注に結びついている状況のほうでした。
この章のまとめ
・「意識を高めて」は測れないので、翌月には消える
・納期遵守率を外注別×毎月で数値化して、そのまま見せる
・話し合いが「お願い」から「事実の確認」に変わる
・数字が次の受注につながると分かると、相手が自分から動く
④ 数字を見せる「場」をつくる|朝会と月1回の定例
④-1 朝会|全部門が同じ数字を見て、対策をその場で決める
ここまでの3つのやり方には、共通の前提があります。数字は「出す」だけでは足りず、「見る場」とセットで初めて回るということです。
私の場合、その場のひとつが朝会でした。営業・製造・品質といった各部門が、同じ数字を同じ画面で見る。不良や遅延が出ていれば、担当部門だけの問題にせず、対策をその場で決めて持ち帰る。資料を後で回覧する方式だと、読む人と読まない人が出て、そこで止まってしまうんですよね。
④-2 月1回|社内と外注で「品質・納期・技術」の定例を持つ
もうひとつの場が、月1回の定例打ち合わせです。毎月決まった日に、社内の関係部門と外注先を交えて「品質・納期・技術」を確認する場を固定しました。
ポイントは「決まった日」にあると感じています。問題が起きてから招集する会議は、どうしても「詰める場」になります。毎月必ずある定例なら、先月の数字を並べて淡々と確認できる。外注別の不良率も納期遵守率も、この定例があるから続きました。
なお、外注や現場と数字の細部を詰める場面では、通訳を挟むとどうしてもニュアンスが落ちます。私は中国語で直接やり取りしていましたが、これから学ぶ方はビジネス中国語スクール比較3選も参考にしてみてください。
この章のまとめ
・数字は「見る場」とセットで初めて現場を動かす
・朝会=全部門が同じ数字を見て、対策をその場で決める
・月1回の定例=社内+外注で品質・納期・技術を確認する
⑤ 監査は「来る前提」で回す|専任1人と月次チェック
⑤-1 以前は、監査の連絡が来てから慌てて準備していました
数字で回す話の応用編として、客先監査の話も書いておきます。以前のわが社は、客先監査の連絡が来てから、監査項目に合わせて慌てて準備するやり方でした。
これで乗り切れることもあります。でも、監査のたびに現場の通常業務が止まりますし、直前に整えた書類は監査が終わるとまた崩れていきます。「その時だけ」の対応は、結局いちばん高くつく——これも数年やって痛感したことです。
⑤-2 専任を1人置き、毎月決まった日に各部門を確認する形へ
そこで、監査対応の専任担当を1人決めて、監査の予定があってもなくても、毎月決まった日に各部門の状態を確認する形に変えました。
発想は毎月の不良率や納期遵守率と同じで、「イベント対応」を「毎月の習慣」に変えただけです。監査が日常の延長になると、連絡が来ても慌てる場面がなくなりました。監査は「来たら困るもの」ではなく「来る前提で回すもの」と決めてしまうのが、結局いちばん楽だったと感じています。
この章のまとめ
・監査の「その時だけ」対応は、通常業務が止まって高くつく
・専任1人+毎月決まった日の確認で、監査を日常の延長にする
・イベント対応を毎月の習慣に変える、という発想は全項目共通
⑥ 明日から試せる3つの小さな見える化
⑥-1 その1|数えている「不良」の定義を、一段だけ広げてみる
いま集計している不良率があるなら、まず「何を数えていて、何を数えていないか」を確認してみてください。作り直しだけを数えているなら、特別採用や手直し品まで一段広げてみる。数字そのものより、線引きを変えるほうが早く効く——これが私の実感です。
⑥-2 その2|率は「相手別×毎月」で出す(表計算で十分です)
不良率も納期遵守率も、全体の平均ではなく相手別(外注別・部門別)に割って、毎月同じ形式で出し続けるのがコツです。高価なシステムは要りません。私が使っていたのも既存の記録と表計算だけです。
いまならAIに集計を任せる手もあります。手元の不良記録を渡して、こんなふうに頼めば、外注別・月別の推移表まで作ってくれます👇
この不良記録のリスト(日付・外注先・内容・処置)を渡すので、外注先別・月別に集計して、発生率の推移が分かる表を作ってください。数える対象は「作り直し」だけでなく「特別採用」「手直し」も含めてください。集計を始める前に、母数(生産数や検査数)をどう取るかを私に質問してください。
中国ではデータやAIの活用が本当に速いスピードで広がっています。現地のAI事情はWAIC 2026 上海|押さえるべき3つの注目点にも書きました。
⑥-3 その3|数字を見せる場を、先に決めておく
3つ目は、出した数字を見る場所を先に決めておくことです。集計だけ立派になっても、見る場が無ければ誰の行動も変わりません。既にある会議を1つ選んで、そこで毎回この数字を見る、と決めるだけで十分です。新しい会議を増やす必要はありません。
これから上海・中国へ赴任される方は、仕事の立ち上げと合わせて生活面の準備も必要になります。生活側の全体像は上海駐在 完全ガイド|赴任準備〜生活立ち上げの6ステップにまとめています。
この記事の持ち帰り
・数字は「作る」より「どこまで含めるか」で効き方が変わる
・お願いでは人は動かない。相手の利益に直結する状況をつくる
・突きつけるのは数字、支えるのは場(朝会・月1定例)
・かかった費用はほぼゼロ。既にある記録と会議だけで回せる

まずは来月の集計からで大丈夫。「特採と手直しも数える」だけなら、明日の会議で決められますよ🐼
この記事は、中国の現地法人に関わる4つのフェーズのうち、運営期の2本目「数字で回す」にあたります。進出から撤退までの全体像は中国ビジネスの実務 完全ガイド|現場20年でわかった4つのフェーズにまとめました。
⑦ 中国工場の見える化に関するよくある質問(FAQ)
- Q見える化はどこから始めればいいですか?
- A
私の経験では、新しい数字を作るより「いまある集計の対象と分け方を見直す」のが最短でした。すでにある不良記録・納期記録を、相手別・月別に並べ替えるだけでも見え方が変わります。まずは手元の記録の棚卸しから始めるのがおすすめです。
- Q数字を集める仕組みがない場合はどうすればいいですか?
- A
紙と表計算で十分です。私がやっていたのも、既存の記録を表計算で毎月まとめ直すだけでした。最初から完璧な仕組みを作ろうとすると始まらないので、まず同じ形式で数ヶ月続けて、続いたら形式を整える順番がおすすめです。
- Q専用のシステムを導入したほうがいいですか?
- A
目的次第ですが、私の実感では「毎月同じ形で出し続けられるか」のほうが大事でした。立派な仕組みでも続かなければ意味がありません。まず表計算で回る形を作り、システム化はその形が固まってから検討しても遅くないと思います。
- Q数字を出すと、外注先や現場との関係が悪くなりませんか?
- A
出し方次第だと思います。私は数字を「個人を責める材料」ではなく「毎月の定例で一緒に見る事実」として出しました。数字を先に共有して、対策をその場で一緒に決める形にすると、むしろ話が早くなり、お互いの言い分のすれ違いが減りました。
- Q数字を出しても改善しないときは、何を疑えばいいですか?
- A
まず「数える範囲が狭すぎないか」を疑ってみてください。私の場合、作り直しだけを数えていた間は数字が動きませんでした。定義を広げて実態に近い数字にしたことが転機です。それでも動かないなら、数字を見せる場(朝会・定例)が無いことが原因かもしれません。

